悪魔と閉ざされた心
「はい、食事持って来たわよ」
そう言ってテーブルに食事をおく。
「・・・」
彼を家に連れ帰ってから、もう二週間が過ぎていた。
連れて来た当初は寝たきりの状態で食事も碌に摂れなかったし、傷が癒えて食事が出来る様になってからも私が目の前で毒など入っていないと証明する迄は食べてくれなかった彼だが、今では私の様子を伺いながら恐る恐るだが食べてくれる様になった。
「美味しい?」
「・・・」
何も答えてはくれないけれど黙々と食べてるし気に入ったのだろう。そう思う事にしておく。
あの時は、どうなる事かと思ったけど・・・
彼の怪我は、私が思っていた以上に酷いものだった。
家に着いた途端気を失い倒れた彼を見て、私は気付いた。
私が手を引いた時、彼は抵抗し無かったのでは無く抵抗する力も残っていなかったのだと。それから数日私はつきっきりで看病した。
その甲斐もあってか彼は日に日に良くなっていき、今では一人で歩ける程に回復した。
まだ何も話してはくれないけれど、無理に聞き出そうという気にはなれなかった。
彼が自分から話してくれるのを待とうと思う。彼の傷の原因も、天界に侵入した理由も・・・きっと話してくれる・・・。
まだ・・・名前も知らない彼だけど・・・彼は真摯なひとだと思うから。
「・・・ル」
「え?」
声が聞こえた気がして振り向く。
「だから、ベル。僕の名前」
「っ!」
名前・・・
名前を教えてくれた・・・それだけの事なのに、凄く嬉しくて。
「そうだ、自己紹介。
まだだったよね?私は」
「ルシフェル」
「他の天使が、あんたの事そう呼んでるの聞いた」
「そっか」
「何、笑ってんの」
「え、私笑ってた?」
言われて初めて私は自分が笑っていたのに気が付いた。
私は自分で思っていたより、ずっと嬉しかったらしい。
「ルシフェルって天使長の名前だよね。何で天使長が悪魔を助けるの」
「天使長・・・天界を変えたい・・・何て・・・本当は自分に価値が欲しかっただけ・・・だから私は天使長になったんだ」
気付くと私は呟く様にそう零していた。
「え?」
良かった、聞こえていなかったみたいだ。
「何でもない。さぁ、何でだろうね?
はい、この話はもうお終い!」
少し強引だったかもしれないが、彼は渋々引き下がってくれた。
心を閉ざしているのは、彼では無く・・・
きっと、私の方・・・
いつか笑って話せるといいな・・・