4話※雌黄総一朗視点※
可愛い幼なじみの様子がおかしい。
初めて会った頃は同い年とは思えない程しっかりした子で、母に中々会えず寂しかった俺はその同い年の女の子に母のぬくもりを求めてた。今となっては恥ずかしい思い出だけど、あのぬくもりだけは今も忘れられない。その時から、ずっとこの手の中にぬくもりを感じていたいと強く思った。順調に可愛く成長していく恵美を悪い虫から守る為、自分の実になることは一通りやったし出来るだけ一緒にいるように心がけた。
高校入学になって、新しく外部生も入ることだしと正門を使って仲の良さをアピール、恋人同士だと誤解してくれれば都合がいい--なんて邪な考えをしていたからだろうか、それまで楽しそうに鼻歌を歌っていた恵美が正門に着いた途端何かに驚いたかのように短く叫んで走り出すという奇怪な行動をしだしたのは。慌てて追いかけて話しかけても全く反応しないかと思ったら急に真っ青な顔をしてふらりとよろめく。具合でも悪いのかと問えば、青を通り越して白っぽくなった顔で大丈夫と笑いかける。全く大丈夫そうではないし、すぐにでも医者に見せようと思ったけどなんか無言の圧力で校舎に連れて行かれてしまった。
その後も何かぶつぶつと独り言を言ったり、入学式ではぼうっとしてたかと思えば会長を見るなり百面相を始めたりと、おかしな行動ばかりしていた。いくらいつもぼーっとしてたりちょっとうっかりしたところのある子だったとはいえ、今日の恵美はあまりにおかしい。入学早々何かあったのだろうか。一時期、俺のことが好きだという女の子達に嫌がらせをされたことがあったのだけど、もしかしてまた何か言われたりしてるのだろうか。今度恵美に何かしたら家ごと潰すよって忠告しておいたんだけどな、それも無視するくらい馬鹿な子たちだったのか。猶予なんてあげないで、すぐに潰しておけばよかったか……。とにかく、帰りに何されたのか聞かないと。
「ごめん、お待たせ」
校門脇の木の下できょろきょろ不自然な動きをしている恵美を見つけて声をかけるとびっくりした顔をして振り向かれた。もしかしなくても隠れていたつもりなんだろう。後ろ姿丸見えなところがとても可愛い。
裏門に車を停めてあることを言うと朝のことを突っ込まれたのでヒラリと躱して車に乗り込んだ。今朝の奇行の理由とか、何かされてるのかとか聞こうと恵美を見ると恵美も何か言いたそうにもじもじとしている。そのまま言い出すのを待とうと普通に会話をしていても、時折もじもじと口を動かすだけで中々言い出せないでいるみたいだ。そのうちに眠たくなってしまったのか徐々にうつらうつらとしだす始末。小さな子供のようで可愛らしいけど、そんなに言いにくいことをされたのかと気が気じゃない。やはり自分から切り出すかと思ってどう自然に聞くか考えていると、ついに恵美がこっくりこっくりと船をこぎ出してしまった。
「恵美、眠かったら寝ていいよ」
眠い恵美に嫌なことを無理やり聞くのも気が引けて、今日は我慢することにした。明日自分で言ってくれたらそれでいいし、こちらでも恵美の身辺を調査しとこう。
軽い気持ちで肩に寄りかかっていいよと言うと、思いのほか素直に頭を乗せてきてどぎまぎしてしまった。さらりとしたボブヘアーはその白い首筋を隠そうともしない。まるで引力でもあるかのように首筋から目が離せないでいると、少し身じろぎした恵美と目が合って慌てて逸らした。俺の方を潤んだ目で見上げてくる恵美を見て、帰りまで我慢できるか理性をフル動員させているときだった。
「ねえ、そうちゃん。わたし、まだそうちゃんといっしょにいていいかな?」
一瞬、どういう意味で言われたのかわからなかった。だからこそ、反射的に「当たり前だ」と返すと、恵美はふんわりと幸せそうにはにかんでこてんと寝落ちてしまった。
その幸せそうな顔に一瞬理性が吹っ飛びかけたけど、言われたことが気になってなんとか踏みとどまれた。まだ一緒にいていいか、だって?俺が恵美から離れたいとか、そんな馬鹿げたことを誰かに吹聴されたのだろうか。純粋な恵美はそれを信じて不安に感じてしまった?――つまりは恵美は俺から離れたくないのだと深読みして喜びを感じずにはいられないけどそれはとりあえず置いといて、すやすやと眠る恵美の頭を安心させるようにそっと撫でた。俺が恵美から離れるなんてありえない。天地がひっくり返ってもそんなことは起きないよ、と声に出さずに言った。
ご一読ありがとうございました。
短くてすみません…