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1話

流行りすぎて飽和してそうな乙女ゲージャンルがどうしても書きたくて投稿しました。ラストまで考えてありますが、超鈍行だと思います…

ふと目が覚めて時計を確認すると、6時ちょうどを指していた。今日はめずらしく目覚ましより前に目が覚めたみたい。カーテンから漏れる朝日で今日も天気だと知ってなんとなくいい気分。ぐっとひと伸びして残った眠気を飛ばすと、ベッドから出て身支度に向かった。クローゼットにかけられた真新しい制服にニンマリする。この可愛い制服が着れるだけで受験勉強を頑張った甲斐があるというものだ。今日から高校1年生。二度目の高校生活だけど、新生活ってウキウキするな~。


 私、更木恵美には前世の記憶がある。物心つく2歳くらいのときだった。前世で好きだった漫画とか小説である転生ものとは違って、じわじわっと思い出していた。何ていうか、1か月前の自分の行動を思い出してる、みたいな感覚で前世の記憶を辿ったからか違和感なく私に定着している。もちろん前世の私と今の私では考え方が違ったりするけれど、誰でも5年前の自分と今では考え方が違うなんてことはあると思う。まあ、はっきりと詳細まで覚えていることもあればぼんやりとしか思い出せないこともあるし、人の一生分にしては覚えていることが少なすぎるから、まったく思い出していないことのほうが多いんだと思う。全然不便じゃないし、思い出さないことをあれこれ考えてもしかたない。とにかく、前世の記憶はラッキーなオマケくらいに軽~く考えることにしてる。楽天的な性格は前世ともどもだ。


 洗顔の後のフェイスケアもバッチリに新しい制服を着て髪の毛を整える。鏡に映った制服姿に再度ニンマリして、くうるりと一回転してみちゃったり。私立柊学園の制服はいつの時代も可愛い制服ナンバーワンに選ばれている。幼稚園から大学までの一貫校で、セレブ校ながら進学の度に進学試験という、所謂入学試験が行われている。もちろん、合格ラインに届かなければ進学できず別の姉妹学校への転校を勧められる。家柄も学力も求められる学生の憧れ的な学校だったりする。うふふふ。


 ひとしきり制服を楽しんでからダイニングへ向かうと、父と母と弟がすでに座っていた。おっと出遅れちゃった。うちはなるべく家族みんなで朝食がモットーだ。


「おはようございます」


「おはよう恵美」


「おはようめぐちゃん。あら!あらあら、可愛らしい制服姿!後で撮影会ね!」


「おはよう姉さん」


 はしゃぐお母様に撮影会の約束を取り付けられた。写真あんまり好きじゃないんだよな……。平凡さだけを詰め込んだザ・平凡顔の私が頑張って笑っている写真を見て、写真に写るのが苦手になってしまった。


 どうお母様をかわすか考えてるとテキパキと目の前に朝食が配膳されていった。今日の朝はハムとサラダとオムレツのワンプレートに厚切りトースト。ジャムとバターはお好みで。一番好きな組み合わせにお腹が空腹を訴えはじめる。最後にコーヒーを注いで、配膳を終えたお母様が席に着いたところでいただきます、と各々好きなものから食べ始める。うちは朝食を用意するのはお母様の役目だ。お祖母様もしていたというし、更木家のしきたりみたいなものなのかな。小さいころ、友人にお母様が朝食を作っていると言ったら嘘だって言われたっけ。


 オムレツを口に入れると、ぷるぷるふわふわな触感と卵とバターのまろやかで優しい味が広がる。あ~おいし!お母様のオムレツはそこらの料理人より絶対美味しいと思う。


「今日から恵美も高校生か。おめでとう、勉強頑張ったね」


「ありがとうお父様。でもね、入学試験といっても外部用のものと比べたら全然簡単なものらしいよ」


「それでも恵美が頑張ったのには違いがないだろう?」


「それは、そうだけどね。うっかり不合格、なんて嫌だもの!」


「姉さんはうっかりだしぼやっとしてるからね」


「なっ」


「めぐちゃんは何もない所でよく躓いちゃう子だものねぇ~。小さいころはよく転んで泣いてたわね~」


「お母様まで!今はもう転んだりしません!それに、慶だって忘れっぽかったりするじゃないっ」


「自分がうっかり者だってことは否定しないんだ?それに、僕が忘れてるんじゃなくて、姉さんが僕に伝え忘れていることが大体だから」


「ぐっ」


 昔っから弟の慶には口で勝てない。前世の記憶も合わせると私の方がずっと年上なはずなのに。


「まあまあ。恵美は自分の短所をきちんとわかったうえで努力して結果を出しているのだから立派だと思うよ。慶も恥ずかしがらずにおめでとうと言ってあげなさい」


 お父様から見ても私ってうっかり者なんだ。でもって短所って言われるとちょっとショック。でも、慶がちょっと赤くなりながら小声でおめでとうって言ってくれたから許す!なんだ~照れてただけか、このこの!お姉ちゃんと学校が離れちゃうから寂しいんだなこいつぅ~。


 そのあとも雑談を交えながらいつもの朝食を終えて、細かい身だしなみを整えたらそっと壁際で控えている執事の(たいら)さんに目配せをして車の手配をお願いする。


「お嬢様、学校への送迎ですが外に雌黄様がお待ちでいらっしゃいます。いかがなさいますか」


「聡ちゃんが?!うわ、ちょっと待ってすぐ行きます!」


 どうしてなにも言わずに来ちゃうかな!どうせ平さんには私が出てくるまで黙っておくように言っているのだろう。慌てて鞄を持ち、家族に行ってきますとお辞儀をするとなんだか皆生暖か~い目で見てくる。慶はちょっと不機嫌そうでもある。不思議に思いつつ、急いでいるので特に言及もせずに玄関に向かった。ちょっと行儀が悪いけれど早歩きでたどり着くと、どういう技を使ったのか平さんがドアを開けて待っていてくれた。……私より後に部屋を出たと思うのだけど、平さん専用の抜け道でもあるのかしら。


 玄関のドアを抜けて、アーチをくぐった先の門の前にぴったりと藤堂家の車が止められているのが見えた。窓を開けて中から聡ちゃんが手を振っている。


「聡ちゃん!迎えってどういうこと!前もって言ってくれれば待たせることも、私が慌てることもなかったのに」


 頬をふくらまして聡ちゃんに詰め寄ると、ニコニコしながら車の中から出てきた。あれ、春休みの間にまた背が伸びたみたい。いつの間にか私よりだいぶ大きくなってスラッとした体躯に柊高校の制服が似合っている。薄いクリーム色の生地が琥珀色の聡ちゃんの髪と目にぴったり合っていて、まるで聡ちゃんのためにデザインしたみたいだ。見目のいい人は何着ても似合うと言うけど、仕立てのいい服を着ると相乗効果で何倍にも増して良くなるんだな。


「おはよう恵美。ごめんね、恵美の制服姿が早く見たくなっちゃって。やっぱりすっごく似合ってる」

 

 昔から聡ちゃんはこの手の誉め言葉がとってもうまい。おかげで言われ慣れちゃってるからなんとも思わないけども。


「おはよう。それを言うなら、聡ちゃんの方がバッチリ似合ってますから。もうね、どこぞの王子様って感じ。男子の制服にクリーム色ってどうかと思ってたけど、聡ちゃんなら全然問題無いね。それに比べたら私の平凡な見た目じゃあこの制服に負けちゃってるなって、今思ったところ」


「またそんなこと言って。制服がじゃなくて、制服着てる恵美が可愛いって言ってるの。なんでまだそんなこと言ってるかなあ、こんなに恵美は可愛いって言ってるのに」


「はいはいありがとね」


 十人中十人が平凡顔だと認めるであろう私の容姿に対して、過小評価も過大評価もしていない自信があるのだけど、聡ちゃんはどうも納得しないらしい。口をとんがらかしてむくれていてもイケメンな聡ちゃんに可愛いだの言われても、真に受けることができないのはしょうがないと思うのだけど。


「ほら、迎えに来てくれたんでしょう?早くしないと入学式に遅刻するよ?」


 車に入ることを促すと、一転とびきりの笑顔でドアを開けてくれた。


「今日だけだからね。しょうがないから一緒に行くだけだからね」


 ほんのちょっとの抵抗でそう言いながら車に入る。その横に聡ちゃんが座り、ドアを閉めると音もなく車が発進した。


「聡ちゃん、ほんとにこれっきりにしてよね」


「家も隣なんだし学校も一緒だし一緒に登校した方が効率的じゃない?第一、幼稚園小学校中学校と今まで一緒に行ってたでしょ」


「全然効率的じゃないし、中学校まではやっぱり聡ちゃんがこうやって迎えに来ちゃうからしぶしぶでしょ。高校になってまで一緒になんていくら幼なじみでも恥ずかしいし、変な噂だってされちゃうよ。これまで色々誤解されて大変だったし、高校では平穏平凡に過ごしたいの!」


 イケメンな聡ちゃんにメロメロになった女子の多かったこと。そのほとんどに嫌味の一つ二つ言われてる身としては、高校ではなんとしても静かに過ごしたい。聡ちゃんだけのせいじゃないから強く言いづらいんだけど……穏やかな学校生活が欲しい。


「ごめん。俺のせいで恵美が不快な思いをしたことは謝る。そうだよね、やっぱり俺が一緒にいると迷惑だよね。うん、わかった。もうこんなことしないよ。学校でもなるべく近寄らないようにする。だから、俺のこと嫌いにならないで欲しい」


 そう言ってうつむく聡ちゃんに幻の犬耳が見えた。ああっなんかどんどんしゅーんとしていくように見えるっ


「いやね、別にそこまでは言ってないよ?ただ、ちょーっと大変だったなあって。ごめんね、言い過ぎたかも。聡ちゃんのこと嫌いになんてなるわけないじゃない」


「じゃあ、一緒に登校してもいいよね!俺も恵美大好きだし」


「いやいやいやそれとこれとは別だから!それに、嫌いにならないって言っただけで大好きとは言ってないし。いや、好きだけど、友人として好きだけど!」


 そんなにニコニコしてこっち見ても一緒に登校は嫌……ああ、もう。イケメンの笑顔に逆らえる女子なんていないと思う。毎回この泣き落としと笑顔に負けてる気がする。次こそ断固拒否だ!


 両親に連れられて初めて聡ちゃんに会ったのが4歳の頃。すでに前世の記憶を思い出して無駄に落ち着いた4歳児な私の目の前に現れたのはまさに天使だった。イギリス人の母譲りな琥珀色の髪と目。こちらは父親譲りのふわふわなくせ毛。ほんのり朱のさしたふっくらした頬はすべすべで、すぐに頬ずりしたいのをグッと堪えたほど。お互い両親の紹介を受けて自己紹介をして、そのあとは日が暮れるまで一緒に遊んだっけ。それ以来すっかり懐かれたようで、ことあるごとに一緒にいた。中身大人な私は可愛い男の子に懐かれて母性本能くすぐられまくりでせっせと世話を焼いていたな。


「なあに、そんなに俺の顔が格好いい?」


 気づくと横にいる聡ちゃんをじっと見つめていたらしい。目が合うと恥ずかしくなって慌てて顔をそらす。


「聡ちゃんと初めて会った時のこと思い出してたの。あの時は天使みたいに可愛かった聡ちゃんが今はもう高校生かって思って」


「なにそれ。恵美ってたまに年寄りくさいこと言うよね。小さいころは母上みたいって思ってたし」


 がーん。確かに中身は前世の記憶のおかげで実年齢よりかなり上になってますが。そっか、お母様みたいと思ったからあんなに懐かれたのか。聡ちゃんのお母様はとてもアクティブなお方で、仕事で世界中を転々としていたから1か月に数回しか会えないと言っていたし、寂しかったんだな。何気なく聡ちゃんの頭をぽんぽんと撫でてみた。ふわふわな髪の毛は小さい頃と変わらない。


「……恵美、俺もう子供じゃないんだけど」


「なに言ってるのまだまだ子供でしょ。お母様が恋しくなったらいつでも撫でてあげるからね~」


 おどけてそう言うと、ふいっと反対方向を向いてしまった。耳が赤い、照れてるな。ふふふ、さっきのお返し成功。このまましばらく柔らかなくせ毛の感触を楽しむとしよう。


「もうお母様みたいだなんて思ってないよ。そう思えるわけないじゃないか」


「ん?なんか言った?」


 呟きが聞き取れなくてそう返すと、はあっと大きなため息をつきながらジト目でこちらを見てきた。


「恵美ってホントぼーっとしてるというか、鈍感だよね。ま、そこも可愛いんだけど」


 何故かけなされた。朝も家族にうっかりしてるとか言われたし、私ってそんなに間抜けなのかな。気を付けた方がいいかもしれない。


「総一郎様、まもなく学園に到着しますが、校門前の道路がやや混みあっているようです」


 運転手さんの言葉に窓から外を見ると校門まで続く桜並木にずらっと車の列ができていた。入学式ということもあっていつもより車の数が多いみたいだ。


「これは歩いたほうが早そうだ。ここで降りよう」


「ですが、総一郎様」


「学園までの一本道だし、他の車もこれだけいるんだ、危なくはないよ。何かあっても校門までの距離なら対処できるだろう。恵美も、いいよね」


 せっかくの桜並木、むしろ歩きたいくらいなので素直に頷く。聡ちゃんの言った通り、学園までこの距離ならいざというとき私が盾になれば聡ちゃんは学園に逃げ込める。


「恵美今なんかとんでもないこと考えてるでしょ」


「ん?いや別に?」


 聡ちゃんは七家のひとつ雌黄(しおう)家の跡継ぎなんだし、上の中程度の私の家からすればそれはもう雲の上の人。幼なじみでなければ多分知り合うことも話すことも無かっただろう人なんだもの。いざとなればどちらの命のほうが大切かなんて分かりきったこと。まあ、私もできることなら死にたくはないけど。


「心配しなくてもこの学園は警備もしっかりしてて安全だから。ほら、行こう」


 そう言った聡ちゃんにエスコートされて車から降りると、見事な桜並木が目に入った。満開を少し過ぎて、それが逆に桜吹雪となって一面をピンク色に染めていた。


「うわあ、すっごく綺麗だね。中学校までの木蓮の並木も珍しくて良かったけど、やっぱり桜並木って綺麗」


 柊学園は中学校までと高校、大学で校門まで向かう並木の一本道が違っている。中学までは木蓮の並木、高校は桜、大学は銀杏。広い並木道には外部生がバスから降りて歩いている姿もちらほらと見えるが、一様に桜の美しさに圧倒されている。うんうん、分かる。なんたってこの並木道自体がもう学園の敷地内。一般ピープルだった前世ではこんなに綺麗な並木道を見た記憶が無い。


「そんなに上を向いて歩いてると危ないよ」


 横を歩く聡ちゃんがそう言ってそっと手を繋いできたことにも気づかないくらいテンションが上がっていた。門の奥に白を基調とした豪奢な造りの校舎が見えてきた。桜と相まって凄く絵になる。


「ふふふ~ん、ふ~ん、ふんふんふふ~んふ~ん♪」


「ふふ、ご機嫌だね」


「わ、声に出てた!」 


 あまりに気分が良かったのでつい鼻歌を歌っていたみたい。聡ちゃんがニコニコこっちを見てくるのが恥ずかしい。


「聞いたことないけど、なんの曲?なんか耳に残るというか、特徴的だね」


「えっ、聡ちゃん知らないの?すごい流行ってたやつだよ?ほら、えーっとなんだっけ。柊高校の……校歌……じゃなくて、うーん、テーマソングみたいな?」


 聡ちゃんが不思議そうな顔をしてる。うん、自分でも何言ってるかわからない。柊高校とこの桜吹雪が関連する曲だったような。そうそう、校門とその向こうの校舎をバックに桜吹雪が舞ってるなかイケメン達のダンスと一緒にこの曲が流れて……


「あっ…………っああーー!!!」 


「!?恵美!?」


 私の突然の叫びにビクッとした聡ちゃんを尻目に、繋がれた手を振り払って走って校門前へ駆け寄った。やっぱりそうだ。ふと出た鼻歌の曲は前世の記憶のもの。一回聞いたら耳に残る中毒性のある曲とそれ以上に特徴的なオープニングムービーでオタク界のみならず一般人にも知られた乙女ゲーム『rainbow days~虹色の君へ~』 まさにそのOP曲だった。柊高校はその舞台、校門と校舎は何度も見たOPの背景とまったく一緒だった。


 どうしよう、私、このゲームやったことない!



ご一読ありがとうございました!

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