幕間――告白2
【告白2】
数学準備室からは時々、耳を疑う会話が漏れ聞こえる。
「先生! す、好き、です!」
ここは学校で。この扉の向こうに鎮座している宮田は先生だ。
「私は教師ですよ」
「わかってます。でも好きなんです。本気なんです」
本気なんですって言われてどれだけ本気に出来るんだろう。宮田が生徒だったから、或いは女子生徒が教師であったなら。
でも有り得ない。
「本気と言われても、私が応えられるわけないでしょう」
弱ったなあ。用事があってわざわざ出向いたのに、動けなくなってしまった。
「でも好きなんです」
「貴方は私にどうして欲しいんですか? 付き合って欲しいの?」
「そ、うです。先生は私のことが嫌いですか?」
すごいこと聞くなあ。教師が嫌いだなんて答えられないだろ。
「嫌いじゃありませんよ。好きです」
「本当ですか!」
女子の声が浮上する。残酷な男だ。
「ええ。本当です。大切な生徒として大好きですよ」
「そ、そんな。そんな答って、私は恋愛対象として……」
「みれる訳がないでしょう。私は教師で、貴方は生徒です」
「わかっています。でもその上で私は!」
「貴方はまだ子どもです。私は子どもに手を出すつもりはありません」
うっわ。厳しいなあ。いつもやたら笑顔振りまいてるから余計に可哀想だ。高校生捕まえて子どもだなんて、相当痛い言葉だ。
「いつか、私よりも素敵な男性に出会えます。だから、貴方には応えられません」
女子生徒の返答はない。
ガララ
と、思ったら目を擦りながら出てきた。準備室の前で体育座りをしていた俺と目が合う。気まずい。バタバタと反対方向に駆けて行く。
「先生?」
躊躇いがちに準備室へ入ると、宮田は窓の外を見ていた。
「ああ、松原か。もしかして聞いてたのか」
「聞いちゃったよ。かーわいそー」
「いいんだよ。それよりお前、先週宿題提出してなかっただろう。はい、コレ」
「なんだ、そのことか。って、コレ全部補修課題?」
五枚以上あるんですけど。
「大丈夫。松原なら解ける問題だ。明後日までに提出しろよ」
「ちぇー」
がっくりしながら窓枠に寄りかかって外を眺めた。
あ、伊崎がいる。
「用はそれだけだ。もう行っていいぞ」
「あ、はい。それじゃー、しつれーしました」
「放課後までにもってこいよ」
窓から見えた伊崎。窓の外を眺めていた宮田。偶然? それとも…
偶然だといい。俺は密かに願った。