幕間――熱視線、教師
【熱視線】
熱い視線を一際浴びているのは、宮田先生だ。
パレードの簡易部屋から飛び出した彼は白い服が眩しく輝き、男の自分からみても格好よい。彼には悩みなんてないのかもしれないと時々思う。特に女性に関する悩みなどありはしないだろう。なんたって女子生徒に一番人気の“宮田先生”だ。しかし現在彼女はいないという。それがまた人気の秘密なのかもしれない。
「うっわー、分かってたけどすごい似あってるなあ」
ほんのり頬を染めているのは塚山だ。何故ここに居るのか。
「塚山?」
「あ。平センセー、今だけ今だけ。先生方いない間だけ居させて」
「はあー」
溜息が出る。
「羽野ー! こっちで見ていいって平センセーが」
「……許可してないですよ?」
無駄だろうと思うが一応忠告する。
「いいじゃん。今だけだから。ね?」
やはり無駄だったようだ。
羽野が眉を顰めて塚山の傍に並んだ。その顔からどうやら事情を察しているらしい。
「格好いいねえ、宮田先生」
「うん。あの衣装、佐古さんが作ったって言ってたわ」
佐古の名前につい反応する。
「佐古ちゃん? 衣装班だったんだ」
「うん。裁縫得意だし、宮田先生のファンだしね。あと他にも上手い子たちで作ったんだって」
「へえー」
我に返って、へこんでいる自分に気付く。宮田先生は少々掴めないところがあるが、悪い人ではない。だけど劣等感を刺激されることもある。生徒に惚れるなんて漫画みたいなこと、我が身に起こるなんて思わなかった。
あと半年で彼女は卒業する。あと半年、秘めたままでいられるだろうか。
【教師】
「ずっと訊きたかったのですが、御堂先生はどうして教職を選んだのですか」
それは、僅かばかり年下の色男からの質問だった。どうして、と問われてもそんな大層な理由はない。
「単純に学校が好きだったからだ」
学生だった頃から勉強は好きではなかったが文化祭や体育祭、行事の度に騒いだ。日々、何かしら事を起こしては担任や学年主任に落ち着けと怒られたあの頃。学校という場所に行くだけで、気分が高揚した。
「学校の何がそんなに楽しかったんですか」
「何がってお前。お前こそどうなんだ。なんで教師になったんだ?」
「それは、……数学が好きだったからですかね」
数学が好きとくるか。女子高生が好きだからと答えるかと思ってた。さすがにそれはないか。
「数学が好きって、すごい理由だな」
「貴方ほどじゃありません」
「どういう意味だよ、まったく。でも学校ってのは特殊な場所だ。そんでもってとびきり面白い。高校だけで三年間、ずっと同じ年の奴らと一緒に居られる。貴重な時間だなんて皆思ってないんだろうけど、後になるとこの時代が懐かしくなる。その思い出の中にいられるんだ。楽しいじゃないか」
主役は生徒たちだけど、その記憶の中には俺も残る。それが面白い。面白くて、たまらなく嬉しい。
「それにさ、俺はあいつら皆に学校が好きだったと言ってもらえる場所にしたいんだ。だから教師になったんだよ」
学校に馴染めない奴だって中にはいる。それは知ってる。でも俺の手で掬える生徒たちにはせめて、楽しかったと笑って言える場所にしてやりたい。
「そうだったんですか」
珍しく驚いたような宮田の顔。
「意外に御堂先生は、よい教師ですね」
呆れたような、感心したような風情の同僚に俺はにっこりと笑ってやった。