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バーサーカー

 ルドルフさんと別れ、中央広場に戻った。


 なんか今日は疲れたわ。

 精神的に疲れた。


 ルドルフさんはあの後、主人の道、主人道について熱く語っていた。

 適当に相槌打ってたら、更に感動して熱く語りだす始末。


「アキト様はまさに真の主人となる可能性を秘めたお方。しかし、アキト様は優しすぎるところがございます。時には厳しく折檻されることも奴隷にとっては無上の喜びなのですぞ」


 あのね、ルドルフさん。


 俺、今日、異世界、初日。


 奴隷の段階で既にハードル高いのに、折檻ってなんだよ。

 ……なんだよ。


 疲れた。

 いつの間にか昼飯も食いそびれた。


 宿を取ろう。


 嫌だけど宿を紹介してもらいに探索者ギルドにいった。

 やっぱりマチルダさんに捕まった。

 商館でのことを全部知っていた。


 この人、怖いです。


 ついでに気になっていた戦争奴隷の値段について聞いてた。


 戦争奴隷の場合、大抵が二束三文で鉱山や大農場に送られ、どんなに高くとも金貨10枚で買えるそうだ。

 今回は、教育期間が短いこと、奴隷の供給過多であること、ルドルフさんに気に入られていることから、かなり安く手に入ると教えてもらった。

 最後の理由はちょっと気になるけど。


 逆に貴重なスキルを持っていたり高い教育を受けているような高級奴隷だと、金貨100枚つまり白金貨1枚を超える場合があるらしい。


「高い教育を受けた魔法使い、つまりアキトさんみたいな方ですよ」


 ……。


 シルヴァーナは女神の加護なんていう超レアスキル持ちなのに、二束三文の戦争奴隷だ。

 俺のクリスタルを覗いてみると、特殊スキルは表示されていない。

 他の人には分からないのだろう。


 しかし、俺の特殊スキルがばれたら大変なことになりそうだ。

 おそらく世界に一人だけのレアスキル群だ。

 犯罪を犯してでも奴隷化しようとする人はいるだろう。


 くわばらくわばら。


 マチルダさんに紹介された宿はギルドから南へ三軒目のところだった。

 うん。超近い。


 南通りでもかなり中央広場よりだから治安はいいだろう。


 宿屋は「迷宮のバーサーカー亭」。

 名前が不吉すぎやしませんかねぇ。


「すいませーん、部屋空いてます……うあああああああ!」

「なんだ兄ちゃん、泊りか?」


 あわわわわ、なんだこの圧倒的恐怖は!

 指輪付けてるのに全然勇気が湧かないよ!


「あんた! またお客さんを怖がらせて! お客さん、ごめんなさいねぇ。泊りなら1泊2食付で銅貨50枚だよ」


 あの……、ガッ〇さん、〇ッツさんですよね?

 半端じゃないガタイに潰れた片目……。

 鉄の塊みたいな剣を使うベルセ〇クさんですよね?


「おう兄ちゃん、俺の飯はいけるぜ? ちったあ肉食って、筋肉つけな」

「あんた!いい加減にして奥に引っ込んでな! ホントごめんなさいねぇ。でもウチのご飯は評判良いし、風呂も公衆浴場が歩いて5分のところにあるわ。どうする?」


 落ち着け、クールになれ。

 異世界来てから忘れてるけど、俺はエリートだ。クールクールクールクール。


「ゴホン・・・女将さん、10日分お願いします」


 といって銀貨5枚を渡して


「あとこれ、今朝取ってきたササキナ草の葉です。手土産代わりにどうぞ」


 とササキナ草を差し出した。


「あら悪いわね~。傷を負ったまま帰ってくるお客さんも多いのよ。助かるわ。お礼に洗濯代サービスしてあげるから、いつでも出してちょうだい。じゃ、宿帳書くからクリスタル出して・・・はい、アキト・ハセベさん、アキト君ね。部屋は208ね。朝ごはんは6時から8時まで、夜は6時から厨房の火を落とすまでね。でね、うちの主人ったら顔はあんなのに料理だけは上手いのよ~。パーティの料理係だったの。そんであの怪我でしょう?探索者引退するときに、キャサリン、俺と一緒に宿屋でもやんねぇか、なんて言うんですもの。それがあの人の精一杯のプロポーズだったらしいのよ~。意外と可愛いところあるでしょう?あ、私キャサリンっていうんだけどね、いつもはキャシーって呼ばれてたの。あの怖い顔で急にキャサリンなんて呼ばれて私もびっくりしちゃったわ、アッハハハ」


 すげぇ喋るな、キャサリンさん。


 てかあのガッ〇が料理?プロポーズ?

 頭が痛くなってきたから部屋にいこう。





「さてと・・・とりあえず宿は取った。流石に今日は迷宮に入る気はしないな。9話目にしてまだ一度も戦闘シーンがないのは不安だが・・・、とりあえず日用品を買ってひとっ風呂浴びてくるか」


 女将さんに聞いたら、ジルコの街は北側に代官の館、西側に住民街、東側に工房や直轄店が並び、南側は 探索者向けの店が並ぶそうだ。

 治安や商品の値段は南から北にかけて上がるらしく、ルドルフさんの商館あたりは一流の商業区のようだ。

 南西方向は治安が悪いので近寄らないようにと教えてくれた。

 中央広場では定期的に市が立つらしいが今日はやってないそうだ。


 とりあえず南の探索者用の店で、着替えや細々とした日用品を揃えていく。


 実用性1点張りのシャツ(生成り)とズボン(藍色)を買い、パンツを3枚、下着替わりのTシャツモドキ3枚と厚手の靴下も3足買った。

 全部綿製品だと思うのだが、どうもゴワゴワするし、体にフィットしない。

結構着道楽なほうだから不満はあるが、藍色のズボンと生成りのシャツの組み合わせは素朴な感じで悪くないように思う。

 探索者用だからか生地も厚めで、縫製も意外としっかりしている。

 これ全部で銅貨80枚、大体8000円くらいか?安いな。

 草色のナップサックをおまけしてくれたので、全部まとめてアイテムボックスに放り込んだ。


 あとは木のコップ、歯ブラシ、タオル3枚と大きめのタオルを2枚、大きめの布の袋を1枚買って、全部まとめてこれもアイテムボックスへ。

 どれも銅貨1~2枚だった。


 全部含めて銀貨1枚未満で済んだ。

 安定した収入が見込めるようになったら、もう少しいい品を買いたいけど、現状でこの安さは心強い。


 商店街をぶらぶらしていると武器屋の店先にナイフが並べてあった。

 かなり無骨で装飾もないが、大振りで頑丈そうだ。

 一応鑑定してみても問題はなさそうだ。

 鍛冶師の見習いが習作で作ったものらしく、ナイフケースも含めて銅貨50枚だった。

 武器としては使えなさそうだが、日用品として便利に使えそうだ。


 えーっと、これで、宿屋で銀貨5枚、買い物で銀貨1枚と銅貨50枚、手持ちが残り銀貨3枚と銅貨50枚か。結構減ったな。



 宿屋で一回荷物を置いて、公衆浴場に出かけた。

 ちょっとショッキングなことがあったけど、しっかり湯につかって、手足のマッサージもした。



 風呂から上がって小ざっぱりして宿に戻れば、ちょうど夕飯の時間だった。


 今日のメニューは牛っぽい肉のステーキとサラダ、スープにパンだ。

 昼飯を抜いたのでかなり腹が減っていた。

 馬鹿でかいステーキにテンションが上がる。



 早速ステーキを切り分けると、岩塩と胡椒のみのシンプルな味付けだ。

 ほんのりニンニクの香りもする。

 しっかりと塩が効いているアメリカンスタイルのステーキは俺の大好物だ。

 付け合せの玉ねぎも飴色になっていて実に甘い。

 個人的な意見だが、小さいサイズのステーキに手の込みすぎたソースという組み合わせは嘘だと思う。

 シンプルに、大胆に、赤身のでかいステーキというのが本当だ。

 しっかり処理してあれば赤身でもかなり柔らかくなるし、本当の肉の味がする。

 火の通し加減もうっすらと赤身残っていて最高だ。


 サラダにはアンチョビとオリーブオイルのドレッシングが掛かっていて、単品でもかなりレベルが高い。

 ドレッシングの量が上品に抑えられていて、ステーキの口直しに最適だ。


 スープはミネストローネ風で、トマトの角切り、ズッキーニ、玉ねぎ、ジャガイモ、セロリ、ベーコンと超具沢山だ。

 スープだけでも贅沢な一品、パンと一緒に食べれば最高だ。



 結論から言って、この宿、最高です。


 ガッ〇さん、顔が怖くて悲鳴あげちゃってごめんなさい。

 あんた……最高の料理人だわ。


 探索者向けだからかすげーボリュームが多い。

 この7割くらいの量で充分だが、このくらい食べないとやっていけないのだろう。



 そのまま部屋に戻ってベッドに倒れこむ。


 一瞬のうちに眠ってしまった。











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