奴隷商
結局、マチルダさんに実家の奴隷商へ紹介状を書いてもらった。
探索者ギルドが奴隷商へ紹介状を書くことはよくあるらしい。
それでまたマージン貰ってるんだろうな・・・。
今回、俺が学んだことは3つある。
1つ、イズマイールの知識が足りない俺は、頭の切れる人間には絶対敵わない。
2つ、イズマイールでは絶対に借金をしてはいけない。
3つ、マチルダさんには気を付けろ!
マチルダさんの実家は、中央広場から少し東に入った場所にあった。
なんかスゲー立派なお屋敷なんですけど・・・。
看板も無いし、知らない人はここが奴隷商の商館だなんて気が付かないな。
門番の人に紹介状を渡すと、屋敷から白髪の執事が出てきた。
そのまま1階を通り過ぎ、2階の応接室に通された。
すぐにお茶とお茶菓子が出てくる。
見た目は紅茶だけど、プーアル茶っぽいクセがあるな。
気に入った。
5分ほど待つと、奥の扉から青髪の紳士が入ってきた。
「アキト様、お待たせしました。私が当商館の主ルドルフでございます。本日はようこそいらっしゃいました。マチルダめがなにか粗相をしていなければいいのですが」
ええ、あなたの娘さんのせいでギルドに行きづらくってしょうがありません。
「探索者のアキト・ハセベと申します。マチルダさんには色々と教えていただきました。大変な才媛でいらっしゃいます」
「浅知恵ばかり働く娘でお恥ずかしい。ところで、アキト様は美しく処女の迷宮探索用の女奴隷をお探しとか」
おい、マチルダ、てめぇ余計なこと書きやがったな。
なんだよ、女奴隷って。
しかも処女限定かよ。
まぁ・・・別にいいけど。
「お若いのにしっかりしていらっしゃる。迷宮でLv1から育て、しかも女の面でも1から育て上げるならば、アキト様に身も心も服従する奴隷となりましょう」
とんでもねぇこと言う親父だな。
娘が娘なら親父も親父だ。
なんだよ、身も心もって。
まぁ・・・別にいいけど。
「奴隷といっても、扱うのはなかなか難しゅうございます。お若い方は力づくでも言うことを聞かせようとなさいますが、奴隷といえども心がございます。その点、アキト様はしっかりしていらっしゃる。このルドルフ、感服致しました」
ルドルフさんがしきりに頷いている。
こうなることが分かってて余計なことを書いたのか。
「ええ、奴隷といっても人間。愛をもって接することが人の道であると考えています」
「素晴らしいお考えです! 法的には奴隷は物とされていますが、物としてだけ扱っては真の忠誠は得られません。アキト様は体だけでなく心まで服従させるコツが分かってらっしゃる」
なんか違う・・・。
親子揃って支配だの服従だの・・・。
分かった。
こいつらバカだ。奴隷バカ。
そうこうしている内に、白髪の執事が戻ってきた。
「旦那様、借金奴隷の準備が整いました」
あれ?
「ちょっと待って。戦争奴隷が入荷したって聞いたんだけど」
ん?ルドルフさんが難しい顔をしているぞ。
「アキト様・・・そこまでマチルダから聞いておりましたか」
「ええ、戦闘奴隷が大量に入ったと。奴隷の在庫が一気に増えては食費や教育も大変でしょうし、買い手もすぐには見つからないでしょう。その分、安くなるかと期待してきたのですが・・・」
もう全部正直に言おう。
異世界初日でやり手の奴隷商と交渉なんてできないよ。
下手したら、俺の予算までマチルダさんから伝わってる可能性もある。
「アキト様のおっしゃる通りです。しかしながら、私共の商売としましても、奴隷を右から左という訳には参りません。戦闘奴隷は一昨日に到着したばかりで、とても商品としてお出しできません。最低でも1か月は教育しないと当商館の名折れとなってしまいます」
ルドルフさんの言うことはもっともだ。
しかし、1週間前の戦闘というのも気になる。
「あのルドルフさん、今日は様子見ということでまた1か月後に・・・」
「なるほど! アキト様、流石でございます。現状と1か月後を見比べて、当商館の教育能力を計ろうと・・・これは教育プランを練り直さなくては!」
うん。この人バカなんだな。
「おい、私がアキト様に借金奴隷をお見せしている間に、戦闘奴隷のほうの準備をしておけ」
そう言ってルドルフさんが手を叩くと、扉から貫頭衣を着た女性が10人ほど入ってきた。
うわぁ・・・。
猫耳に犬耳に兎耳に・・・ジルコに来てから西門と中央広場付近しか見てないけど、その中に異種族はほとんど居なかった。
でも、ここにいる借金奴隷のうち、半分は異種族だ。
貧富の差があるんだろうか。
「アキト様は他種族でも問題ないかと思い、当館の最高の10人を連れてまいりました」
「ええ、他種族でも全く気になりません。皆、大変な美人でびっくりしております」
本当だった。
粒ぞろいである。
ルドルフさんすげーな。
「アキト様、そのお言葉だけで皆喜んでおります。皆、アキト様のお優しいお言葉を聞いたな! では全員準備しろ」
というと、女性たちが一斉に貫頭衣を脱ぎ捨てた。
その・・・どうしよう・・・
「アキト様、まずはこちらの兎族の女ですが、当商館で3か月ほど教育しております・・・」
ルドルフさん、もうノリノリである。
「ささ、アキト様、こちらの牛族の女、少々歳はいっておりますが、当館一の乳を持っております。どうぞ揉み心地をお試しください」
揉んだよ。
揉みましたとも。
どうぞ軽蔑して下さい。
なんか涙出てきた。
「旦那様、戦闘奴隷の準備が整いました」
ひとしきり揉んだ後、戦闘奴隷の部屋に向かった。
部屋の前には護衛が立っており、鉄の扉がついている。
ルドルフさんに続いて鉄の扉をくぐるると、俺は思わず顔をしかめてしまった。
この部屋の奴隷たちには明らかに暴力の痕がある。
顔に青あざの残っている者や、立つのも苦しそうな者もいた。
しっかりと手当されてはいるが、見るからに痛々しい。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。戦争奴隷の入荷直後はいつもこのような有様で・・・ もっとも、ここに居るのは軽症の者達です。重症の者はその場で傭兵に・・・」
なるほど。
ルドルフさんの店はかなり良心的なことが分かる。
先ほどの借金奴隷達はかなり栄養状態が良かった。
しっかりと食事が配られているのだろう。
ここの戦争奴隷は皆痩せているが、1か月あればかなり回復しそうだ。
「皆、よく聞いてくれ! こちらのアキト様は探索者をされている。お若い方だが、先を見る目と主人としての心得をお持ちだ! 今日は皆の様子見に来られた。一月後にまたいらっしゃるそうだ。その時にアキト様に選んでいただけるよう、皆しっかり体を直し、奉仕の心を学んでくれ!」
おいいいい、おっさん、なにいってるわけ?
みんな目がらんらんとしてきてるじゃないか。
その時、指輪からビリっと電流が流れた。
なんだ・・・この感じは・・・。
あ、居た。
奥のほうからこっちをじっと見てる女の子がいる。
あー、やっぱり・・・
シルヴァーナ
銀狼族/人間
17歳
身長165cm
体重57kg
レベル:1
職業:銀狼戦士
HP210/210
MP30/30
特殊スキル
女神の加護:ブレイブハート(戦闘時常に高揚、恐怖・混乱無効)
戦闘スキル
統率Lv1
非戦闘スキル
ジョブスキル
スマッシュLv1