テストゥド
「アキト様も一味捕縛に協力してもらいたいのです」
もちろん協力することにやぶさかではない。
「あの、僕みたいな駆け出しが合流してもいいのでしょうか」
「もちろんです。魔法使いは歓迎されますよ。それに神祇官の前でガタカに関わっていないことを宣誓して頂く必要もあります」
なるほど、疑われているのね。
ガタカには魔法使いが必要だもんな。
「分かりました。是非協力させてください」
「ありがとうございます。迎えが来ていますので、このまま代官の館まで行ってください。協力者には報奨金が国から出ますので期待していいですよ」
「ところで、宣誓はいいとして……拷問とかされませんよね?」
「もちろんです。簡単に確認できますよ」
代官の館に着くと、一室を与えられ、夜半まで休憩するように言われた。
夕食が供されたので鑑定スキルで安全を確認してから頂いた。
食欲は湧かなかったが無理やり詰め込んだ。
お蔭で味なんか分からなかった。
風呂を使って3時間ほど寝たのだろうか。
ノックの音で目が覚めた。
扉を開けると、10人ほどの兵士を連れて壮年の立派な鎧を付けた男と、柔らかそうな白いローブを着た若い女性が入ってきた。
20歳くらいだろうか。マチルダさんと同じくらいだな。
「魔法使い殿、某は特務隊隊長を仰せつかっているガイウスと申す。こちらは神祇官のユリア・ドルシッラ様だ」
「初めまして。探索者のアキト・ハセベと申します」
家名まで名乗ると二人とも満足そうに頷いた。
「ユリアですわ。ナ国の高貴な血筋の方に申し訳ありませんが、こちらの水晶に手を当てて、私の言うように宣誓して頂けますか」
そういうとユリアさんは水晶を取り出し、ぶつぶつと呪文を唱えた。
「それでは……、真実の名の下にアキト・ハセベはガタカに関わっていないことを宣言する」
「真実の名の下にアキト・ハセベはガタカに関わっていないことを宣言する」
すると、水晶が青く瞬いた。
「ありがとうございます。この後は捕り物にもご協力頂けるとか。ご武運をお祈り申し上げますわ」
といってユリアさんが柔らかにほほ笑んだ。
さすが本物の貴族、気品が違う。
ガイウスさんに続いて庭に出ると、80人ほどの兵士が整列していた。
すぐに伝令が飛んでくる。
「隊長、準備整いました」
「代官の手勢はどうしている」
「日没前より現場付近に潜伏し、合図を待っております」
「よし、密告者をつれてまいれ」
すぐに薄汚れたなりをした小男がつれてこられた。
「アキト殿、こやつはロクスレイのキュウと言いましてな、こそ泥稼業をしながら件の奴隷商の使いっぱしりをしていたところ、ガタカに協力することに恐れをなして密告してきたのです。すでに宣誓もすませておりますよ」
可哀そうに、キュウとやらはガタガタと震えている。
「キュウよ、お前のことは咎めぬから安心しろ。それよりも、そんなに震えていては怪しまれる。それ、こいつを一杯ひっかけていけ」
ガイウスさんが庭に置いてあった樽から葡萄酒を柄杓で汲み与えると、キュウはこれを一気にあおって
「や、やってやりましょう」
と、いった。
夜の街を一気に走った。
件の奴隷商の館は東通りから南に少し入ったところにある。
四方を塀で囲われた立派な建物だ。
「キュウ、さ、やれ。恐れずともよい。すぐに下がってよいのだぞ」
ガイウスさんが言うと、キュウも頷き正門脇の小さな門を叩きはじめた。
「うるせえな。夜中にガンガン叩くんじゃねぇ。どこのどいつだ」
柄の悪そうな男の声が聞こえた。
「す、すいやせん。ロクスレイのキュウでございやす」
「なんだ、こそ泥のキュウ公か。ちょっと待ってろ。すぐに開けてやる」
小門が開けられると、ガイウスさんが一気に踏み込み、抜き打ちざまに門番の喉を切り裂いた。
後に続いて静かに兵士たちが入っていく。
カチャ、カチャと鎧が小さな音を立てた。
俺は建物の玄関前までいくと、ゆっくりとガイウスさんと目線を交わし
「集え マナストライク」
魔法で一気に玄関を打ち破った。
同時に兵士たちがわぁっと鬨の声を上げると、潜伏していた代官の手勢も呼応して一気に建物を取り囲んだ。
建物の中は奇襲に右往左往している。
そこにガイウスさんの大声が響いた。
「刃向うものは斬って捨てろ! 突入!」
俺が玄関から室内にもう一度マナストライクをぶっ放すと、ガイウスさんと兵士たちが次々と玄関や窓から突入していった。
俺も後から続いて、閉まっている扉に向かってマナストライクをぶっ放していく。
扉の裏に潜んでいた男たちが吹っ飛んだところを、兵士達が次々と捕縛していった。
奇襲されて武器も持っていない男たちが椅子や燭台で殴り掛かってくるのを兵士達は盾で吹き飛ばし、グラディウスで斬り倒していく。
ガシャーンと音を立てて2階から人が落ちる音が聞こえるが、建物は十重二十重に包囲されている。逃げられないだろう。
「アキト殿、こっちだ」
ガイウスさんに続いて一番奥の扉の前まで来た。
「集え マナス……」
「荒れ狂え ウィンドストーム」
向こう側から声が響くと、扉が周りの壁ごと切り刻まれた。
扉の横に居た兵士二人が血を吹きだして倒れる。
その瞬間、ガイウスさんが俺を庇うように立つと、大盾を構えて叫んだ。
「テストゥド!」
風の刃が盾にあたって弾き返され、廊下の窓が外側に割れ飛んだ。
「アキト!」
「マナボルト!」
次の魔法を詠唱しようとしていたローブ姿の男は、マナボルトをもろに食らって吹き飛び、壁に磔となった。
壁際にいた小太りの男が、魔法使いの血を浴びて失禁しながらへたり込む。
「奴隷商ギヨーム、ガタカの嫌疑により拘束する。神妙にしろ」
ガイウスさんはゆっくりと大盾を下すと、ギヨームを拘束した。