ガタカ
ベースレベル7、魔法使い、剣士、戦士、アコライトも全てレベル7になったので、2階層のボスに挑むことにした。
1階層と違って死ぬ危険性があるので安全第一で行きたいが、2階層ではこれ以上レベルが上がらないので仕方がない。
それに、今の俺にとって2階層の敵は弱すぎる。
以前ゴブリン2匹と戦ったとき攻撃を受けたが、殆どダメージを受けなかった。
一応、ギルドで2階層のボスを調べてきた。ゴブリンエリートだ。
くそっ、情報があるなら最初から調べておけばよかった。
ボス部屋に入る前にアクセルをかけ、ジョブを魔法使いと剣士に戻しておく。
斧はゴブリン相手だと少々使いにくかった。
扉を開けるとゴブリンエリートが出現した。
身長は170cmくらいか。ナイフではなくグラディウスを持っている。
すかさずマナボルトを放った。
ここ数日悩みぬいた末に、まずはマナ系列のスキルを伸ばすことにした。
他人より魔力が高い俺なら、わざわざ弱点属性を突かなくても十分な威力が期待できる。
あとは属性魔法を1系統か2系統取れば、範囲攻撃やここぞという時の火力も得られるようになるだろう。
マナボルトはLvを上げるにつれて誘導するようになった。
もっとも、そこまで強い誘導性があるわけではないので、基本的に胴体を狙っていく。
魔法でノックバックさせ、剣で振り払って部屋の角に追い詰め、止めを放った。
「集え、マナストライク」
砲丸のようなマナの塊がゴブリンエリートに直撃し、ドガンと音を立てた。
壁に押し付けられて衝撃の逃げ場がないだろう。
ゴブリンエリートの胴体が潰れ、そのまま光になっていった。
うーん、かなり余裕があるな。
明日からは3階層に向かおう。
「アキト様、お待ちしておりました」
宿に帰るとマチルダさんが待っていた。
「早急にお知らせしなければならないことがありまして……」
マチルダさんに連れられてギルドの奥の部屋に行くと、
「アキト様はガタカという手法をご存知でしょうか?」
いや、初耳だな。
「魔法使いの奴隷は人気があります。奴隷商館に1人いれば目玉商品となるでしょう」
それがどうした。
「しかし、魔法使いになれるのは貴族の血筋のみとされています。貴族の方々は自らの血筋を女神に連なる血、ブルーブラッドと呼んで誇ってらっしゃいますし、皇帝は神の子とされています」
ああ、よくあるよくあるw
「貴族が奴隷を孕ませた場合、その子は捨て子となって孤児院に引き取られることがあります。いちいち育ててなどいられませんし、法的には奴隷の子は奴隷とはいえ家庭内での扱いに困りますから。そこが魔法使い奴隷の仕入れ先となっているのです。もちろん母親が子を産む前に解放奴隷となり、子供は庶子として育てられることが大半ですが。」
何とも……、正直すぎるというか世も末というか。
「とはいっても、貴族の子供でも魔法使いになれる確率は低いですし、そもそも本当に貴族の種かどうかは確認できません。宝くじを買うようなものです」
「そ、それで、それが私に何か関係が?」
「はい。そこで一部の奴隷商が考え出したのがガタカという手法です。その内容は、魔法使いの方に未妊娠の奴隷を抱いてもらおうというものです」
想像以上に世も末だった。
地球にも精子バンクがある。
俺の留学していた大学の近くにも支店があった。
精子を提供すると報酬がもらえた。
俺はやっていないが。
そこでは、理想的な精子提供者の条件として、知的で、身長180センチ以上、運動神経が良く、SAT(大学進学適正試験)でスコアが1400以上、茶色の目、金髪、エクボがあることとされていた。
理由は単純でこれが顧客が望んでいる特徴だからだ。
「「もし顧客のみなさまが高校中退者の精子をのぞむのであれば、高校中退者の精子を提供します」」
とか言って、そこの経営者が顰蹙を買っていたっけ。
少なくとも地球の場合は、母親に望まれている。暖かな家庭を得ることも可能だ。
母親の同意があればいいのか、そもそも金で買うことが許されるものなのか、という問題はあるけれど。
ガタカの場合はもっとひどい。
母は奴隷として強制され、子も奴隷となる。
人を人として扱っていない。
「許せませんね。あってはならない手法です」
「もちろんです、アキト様。私も個人的に許せません。それに帝国法上も重罪となります」
貴い血筋を乱すという理由でですが……、とマチルダさんは呟いた。
「そこで本題ですが、本日、ジルコにガタカを行おうとする奴隷商がいることが発覚しました。既に帝都から法務官と神祇官、特務隊が出発しており、夜半には到着予定です。アキト様はこれに合流し、一味捕縛に協力して頂きたいのです」