ゴブリン
次の日からスライムで剣士の練習をしていった。
用心のためにセカンドジョブに魔法使いを付けていたが、剣士だけでもスライムに対応できるようになると、魔法使いを外してアコライトを付けた。
最初のうちは助走を付けて突き刺さないとコアに攻撃が届かなかったが、スラッシュをLv3まで上げると、斬る動作でもコアに攻撃が届くようになった。
どうも斧と剣では勝手が違う。
ガルドさんと女将さんが他の探索者にアドバイスをするところを聞いていたが、
「いいか、グッと踏み込んでドカンと叩きつけろ!」
「いい? ドンッ! と踏み込むと同時にズバッと斬るのよ」
よく分からなかった。
それからは「ドンズバッ、ドンズバッ」と呟きながら、三日ほど剣士とアコライトを強化した。
剣士がLv5になるとスラストというスキルを覚えられるようになった。
スラッシュのLvを4で止めて、スラストLv1を取得する。
アコライトは小ヒールを基本スキルとして、Lv5になるとアクセルとヒールというスキルを覚えられるようになった。
こちらも小ヒールをLv4で止めて、アクセルLv1を取得した。
アクセルは対象の素早さを上げる効果があり、効果時間も30分ほどある。
まだLv1なので効果は僅かだが、一度自分に掛けてアコライトのジョブを外しても効果が持続するので積極的に使っていこう。
剣士とアコライトがLv5となったところで次の階層に行くことにした。
というのも、モンスターのLv+5までしか経験値が入らないからだ。
PTを組んでいるならばもっと早い段階で2階層に進めるのだろうが、俺はソロの上、戦闘の経験に乏しい。
慎重に慎重を重ねて進むことにした。
迷宮入口の石碑から2階層の入り口にワープすると、早速扉を開けると
いた。
150cmくらいの身長、緑の体、醜い顔、錆びたナイフ。
鑑定するまでもない。
ゴブリンだ。
今日は魔法使いと剣士の組み合わせで来ている。
魔剣士www厨二wwwってうっさいわ。
早速ギャアギャア喚いているゴブリンの胸元に向けてマナボルトを放った。
スゴッといい音を立ててゴブリンが吹っ飛んだ。
観察してみると、ゴブリンの胸元に大きな裂傷ができている。
呼吸音もおかしいし、ビクンビクンと痙攣している。
胸骨でも折れたのかな。
喉に剣を突きこんで楽にしてやった。
ドロップしたのは魔石と……ゴブリンボーン?
骨なんて何に使うのか。
マナボルトLv1で一撃じゃなかったのは少しショックだったな。
どの属性の魔法を覚えるか決まっていないので、スキルポイントは使えない。
ちなみに俺はよく優柔不断だと言われていた。
次のゴブリンは剣で倒すことにする。
身長と得物の差で、リーチではこちらが大きく勝っている。
こちらに近寄ろうとするところを、スラストと念じながら、カウンターで喉元に突きを入れてやった。
うん、一撃だ。
その次のゴブリンにはスラッシュを使って袈裟切りにしてみると、敵が動いたせいで、左腕を切り飛ばし腹部に食い込んだところで剣が止まった。
そのまま剣を引き抜くと同時に蹴倒すと、
あれ? 普通の人間なら致命傷のはずなのに、かろうじて息があるようだ。
見てみると、ふむ、血は出ないみたいだな。
むしろ、傷口にマナが集まってキラキラしている。
とりあえず心臓のあたりに剣を刺し込んでトドメをさした。
しかし、不思議だな。
スラストのLvは1、スラッシュはLv4なのに、スラストでは一撃死、スラッシュでは死ななかった。
斬りつける場所が悪かったんだろうか。
そう考えて、次からは頭と首を狙うことにした。
やはりそうだ。急所があるんだ。
スラッシュで首を飛ばしたり、頭を割ったりすれば、どのゴブリンも一撃だった。
それではということで、マナボルトで顔を狙ってみると、ゴキンッ!と音がして、ゴブリンの首が反対側に折れてそのまま光となった。
角度的に見えなかったが、顔はひどいことになっていただろう。
しかし、マナボルトで頭部を狙うのはかなり難しい。
ゴブリンの動きは単調で、真っ直ぐ近寄ってくるだけなのに何発か外してしまった。
急所があると分かったところで、次は小ヒールの実験をすることにした。
まずゴブリンを見つけて、スラッシュで武器を持っている右腕を切り飛ばす。
次に、うつ伏せに蹴倒し、背中を踏ん付けて動けないようにする。
ふむ、残りHPは2割強といったところだな。
やはり四肢を欠損すると相当なダメージとなるらしい。
しばらくゴブリンのHPを観察してみるが、HPは増えも減りもしない。
普通だったらこのまま出血で死に至るはずなんだが、やはり傷口に集まるマナが問題なのだろうか。
傷口から少し肩に近いあたりをもう一度切り飛ばした。
切り離された部位はそのまま光となって消える。
新たな傷口がマナに包まれた。
残りHPは丁度2割くらいになった。
うーん。
首か頭をやらないと死なないんだろうか。
そう思って残っていた左腕を切り飛ばすと、ゴブリンが光になって消えていった。
おー、急所じゃなくても死ぬのか。
しまった、小ヒールの実験を忘れてた。
急いで次のゴブリンを捜し、先ほどと同じ状態で踏みつける。
しばらく観察して、さっきのゴブリンと同じことを確認すると、ゴブリンに向かって小ヒールを連発した。
すると、少しずつHPが回復していくと同時に、傷口が塞がっていく。
しかし、HPが全快しても、ゴブリンの右腕は無くなったままだった。
なるほど、欠損した部位は元に戻らないらしい。
満足してとどめを刺した。
本当なら、切り飛ばした腕を傷口に押し当てて小ヒールを試してみたいのだが、切り飛ばした瞬間に光になってしまうので、その実験はできないのが残念だ。
さて、次の実験だ。
廊下に戻って、少し休憩してから、アイテムボックスからナイフを取り出した。
今回の実験材料は俺自身だ。
くそ、怖ぇぇ。
腹を決めると、ナイフを手の平に当ててゆっくりと引いた。
痛ってぇぇぇぇ、ってあれ? あんまり痛くない。
うそ? 傷がない。
自分のHPを見てみたら、1しか減っていなかった。
なんというか……、さすが異世界だな。
これ、手術とかできないじゃん。あ、俺は病気にならないか。
そういえば、迷宮内なら血が出ないんだから、手術は迷宮でやればよくないか?
などと考えながら、今度は思い切って鋭くナイフを引いてみた。
「痛たぁ!」
バカ! 俺のバカ!
深くはないけど手の平に一本切り傷がついている。
傷口には、やっぱりマナが集まっていて血が出てこない。
我慢してしばらくそのままにしておいても回復する様子はなかったので、小ヒールで傷を治した。
ちょっと失敗したけど、大きな収穫だ。
実験結果に満足して迷宮を出ると、もう夕方に近い時間になっていた。
迷宮からの帰り道、周りに人がいないことを確かめて、先ほどと同じようにナイフで手に傷をつけてみる。
すぐに血が滲み出てきたので、小ヒールで直した。