宴のあと
オッス! オラ、アキト!
オラ達は今、プールに来ているぞ。
トゥルントゥルンになったからプールに向かってヘッドスライディングしたら水面の上を滑ったぞ!
たまげたな~。
泣きながらイったのも初めてだったぞ!
オラ、イズマイールに来てからビックリすることばっかりだ!
それじゃ、みんなでいっちょ(異世界トリップ)やってみっか!
「ガルドさん、あの部屋はなんですか?」
「おう、あれは涼み台のある部屋だな。あの部屋はみんなで湯上りに阿〇片を楽しむ場所だ。行くなよ」
「ガルドさん、あの部屋は?」
「あそこはスライム風呂だな。お前、スライムスターチって拾ったろ? あれを風呂に入れるとスライム風呂になるんだ」
「ガルドさん、あの部屋は?」
「お前、見れば分かるだろ。男二人が見つめあいながらお互いのモノ握ってるんだぞ」
この三日間、俺は毎日ガルドさんと公衆浴場に通った。
朝早く迷宮に行って、スライムを適当に狩って、昼過ぎくらいに町に戻る。
あとは風呂の時間だ。
ここの公衆浴場はすごい!
三日通っても新しい発見がある。
ガルドさんは見かけによらず物知りで、質問すれば大抵なんでも答えてくれた。
俺が初めて滑った一昨日以来、ジルコでは水面滑りが大流行した。
水面滑りは、全身剃毛を行う奴隷の腕と走者の技術が試される。
F1でいうメカニックとドライバーの関係だな。
なかには頭まで剃り上げた猛者もいる。
俺を剃り上げてくれたディアナさん(仲良くなった)は、あちこちのチームからスカウトを受けているらしい。
公衆浴場でひとしきり遊んだあとは、ガルドさんとワインの炭酸割りを飲む。
元々ガルドさんの好物だったのだが、俺もいっぺんで気に入った。
今年仕込んだワインをよく冷やして炭酸で割ると、風呂上りに最高の飲み物になる。
あとは飯を食って寝るだけだと宿に帰ったら、女将さんに怒られた。
「あんたたち! 毎日毎日風呂ばっかり行って。いい加減にしなかい! あんた、若い男に悪い遊びを覚えさせて恥ずかしくないのかい! アキト君もアキト君だよ! 迷宮行っても昼には帰ってきやがって! いい若い者が情けない!」
うう、確かにそうだ。こんな生活してちゃいけない。
たしかにスライム狩りは予想外に金になった。
魔石は元より、スライム風呂の人気でスライムスターチが悪くない値段で売れるからだ。
しかし、迷宮探索をおざなりにしたせいで、俺の財布の中身は増えても減ってもいない。
それに、もしかしたらアイリスさんが見ているかもしれないと考えると急に恥ずかしくなった。
楽しむのもいいだろう
でも快楽に溺れちゃだめだ。
快楽を支配しなくちゃいけなかったんだ。
「そういう訳で、部屋をぐるぐる回りながら魔法で倒していったんです。最後は2匹をギリギリまで削って、片方に斧を叩き込み、もう片方は魔法で片付けました」
その日の夜、ガルドさん達の私室で4色スライムの時の話をした。
もちろん少しだけ嘘を混ぜてある。
「へ~。アキト君もなかなか器用なことするわね。あんまり聞かない倒し方だわ」
「普通はどうやって倒すんですか?」
「そりゃ、PTを組むわよ。結局、2体のスライムを同時に倒せばいいんだから、二人PTでも大丈夫よ」
PTか……。
「ソロの魔法使いなら範囲攻撃を使っても良いわね。実はあのスライム達は、自分と同じ色の属性を吸収するけど、反対属性には極めて弱いの。赤青緑黄でそれぞれ炎氷風地の属性を持っているのね。例えば炎属性の範囲攻撃を持っている場合、最後にブルースライムを残して分裂させればブルースライム2体が残るでしょう。そこを炎の範囲攻撃で一気に倒すのよ。要は属性という基礎が大事ってことね。」
なるほどねぇ。
「ところで、ジルコの迷宮って初心者用と言われる割には物理職には厳しくないですか?」
「確かに最初は大変かもしれないわね~。スライムの粘膜を切り裂いてコアにしっかりとダメージを通すにはコツがいるから。でもね、一度コツを掴んでしまえば後は簡単。それに、しっかり踏み込んで奥まで切り裂く感覚を初心者のうちに掴まないと、後々になって後悔するわ」
「ま、魔法にしろ物理にしろ、死なないうちに基礎を叩き込むのが大事ってこった。アキト、お前は魔法使いのくせに良いガタイしてる。素の肉体を磨いておけば、将来絶対役に立つぞ」
この助言は大切にしよう。
ガルドさんの意図とは違うと思うけど、俺にはぴったりだ。
ここら辺で気になっていたことを質問してみよう。
先日、魔法使いLv5になったときに、取得可能なスキルにファイアボルト、ファイアストーム、アイスアロー、アイスストーム、ウィンドカッター、ウィンドストーム、アースバレット、サンドストームの8種類の魔法が増えたのだ。
「ところで魔法使いのジョブスキルなんですが、どういう風に魔法を覚えていくかお勧めってありますか?」
「魔法使いかー。一番悩ましいわね。ジョブレベルが5になると炎氷風地の4属性魔法を覚えられるようになるの。最初からあるマナ属性を含めて全部で5属性。実用性を考えるとある程度取得する属性は絞ったほうがいいわ。せいぜい2つか3つね。」
「えっと、全属性ってのは無理なんでしょうか?」
「器用貧乏ね」
女将さんはばっさり切り捨てた。
「いい? 私たちが魔法使いに求めるものは、ここぞというところでの大火力なの。全属性は便利かもしれないけど、便利屋なら他のジョブがやればいいわ」
うーん。魔法使いは大砲って訳か……。
俺の場合はデュアルジョブを生かして、二つ目のジョブで細々とした仕事もできるしな。
「まぁ神話の中なら、女神アイリス様が全ての属性を使えたって話だけどなー。それも現代の魔法とは桁違いの威力だったらしいぜ」
「め、女神アイリス様ですか」
「そりゃ人類に魔法を教えたって女神様ですもの。ま、伝説どころか神話よ」
「はい。僕も地道に不便な大砲を目指します!」
ガルドさん、女将さん。
その人、あと300年後に降臨するぜ。