奴隷の少年
書きたかった小説と何か違う。
首狩りの奴隷のほうが良かったか……そっちのが良いような。
とりあえず、謎です。
ある夜、少年は願った。
流れ星も見えないぐらいに雪の降る夜に一つの願いを。
『自由に生きたい』
貴族に飼われた少年は、与えられた部屋の一室で願った。
☆
次の日のことだ。
少年はいつも通り目を覚ました。年は今年で十三になる。
言葉は学校にも行かせてもらっていないので喋れない。ある程度相手の言葉を聞き取る事ができるだけ、他の奴隷よりは恵まれている。
少年は奴隷の中でも、お兄さん的な立ち位置で――他にも多数いる奴隷の部屋を一つひとつ回ると自分の仲間とも言うべき奴隷達を起こしていく。
彼等にも与えられた役目があるのだ。それが失敗していくごとに、殴られ蹴られていく……少年達には苦痛でしかない。
だから必ず成功させなければいけない。
すべての部屋を回り、全員が起きたことを確認すると自分も本家へと向かうために外へ走っていく。
ここは本家よりも汚く、狭い奴隷に唯一与えられた空間だ。本家よりも遠く離れているため外を走らなければいけないが、少年はその空間をとても大切にしている。
少年はこの世界でも珍しい黒髪を手入れすることなく、靴を履かずに外へ出る。
元々靴は持っていないし、慣れているので苦痛を表情には浮かべないが……かなり痛い。
無事に本家へと着くと足を拭き自分の役割を思い出す。
この屋敷に住んでいる貴族は風呂が好きなようで、毎日三回ほど風呂へ入るのだが……確か、その掃除から始まったはずだ。
風呂へと向かうと、既に風呂は綺麗になっていた。
誰かがやったのだろうか? と考え他の場所を当たってみるも、埃一つ見つからないほど綺麗だった。
新品同然に生まれ変わった屋敷を見て少年は嘆息する。
自分の仲間が掃除したのだろう、そう思うと自分まで嬉しくなってくる。
食事を取るために、自分の主とは別の場所にある小さな食堂とも言えない場所へと赴く。
既に誰もいなく、食器のセットが一つだけぽつんと置いてあり他の物は片付けられていた。
今日はみんな張り切ってるんだなぁ、とのんきに食事を取りながら思う。
いつも通りの不味いものだったが、今日は何故かおいしく感じた。
食器を片付けると外へ出る、そこで主の娘に会ってしまう。
自分も含め、仲間達は彼女に随分と嫌われているようで、殴られたり蹴られたり……かなり頻繁にされる。
ちょうど食事を取ったあとだったの勘弁してほしい、という気持ちもあったが腰を低くして横を通り過ぎると一瞥を返すだけで彼女は何もしてこなかった。
不思議なこともあるものだ、と得した気分になっていると主に会う。
何度も躾けられた挨拶をすると目をくれることもなく主は過ぎ去ってしまう。
速足で歩いていて、娘を追っているようにも思えた。
ただ、推測することしか出来ない。うまく言葉に出来ないのだ。
後姿を眺めて、それが消えると次の仕事をするべく廊下を進む。
目的地に着く前に、赤ん坊の泣き声が聞こえてきて足を止める。
どうやら主の娘の部屋のようだ。
部屋に入ってみると、やはり赤ん坊が娘のベッドで寝ていた。
男の子か女の子かはわからないが、可愛らしい外見をしている。
その時、後ろで扉の開く音が聞こえてくる。
「へぇ、馬鹿が入り込んでる――使えそうね」
いつも通り、殴られそうになりしゃがみ込んだ少年だが事情が違うらしいと気づき立ち上がる。
娘はと言うと、貴族独特の真っ白な肌とエルフよりは短いが……縦に長い耳、更に赤い瞳を歪ませ笑顔を作ると優しく少年に触れる。
「今日ね、パパが奴隷市場に行く日なのよ。それで、この子――わかる? この赤ちゃん、そこで売るって言ってるの」
赤ん坊を指差して言う娘。
内容はよくわからなかったが『奴隷市場』という単語。
奴隷市場と言うと、人の命が軽々しく扱われるあそこだ。
あそこでは金がすべて。持っていれば持っているほど強者になれるのだ。
「酷いと思わない?」
自分に答えを求めている。はい、と言うしかないのだが、いつもとは違う。
自分の意思で首を縦に振った。
「そうよね。あんたも奴隷なんだから当然よね。でさ――」
その後の言葉。
自分にとっては信じられないものだった。けれども、それが赤ん坊の救われる道なのだと思うと……何だかやりきれない気持ちになった。
「あんたは、パパに反抗するの。そうすれば、あなたはいらない子でしょう? 赤ちゃんの変わりにあなたが売られることになるのよ、赤ちゃんは救われるの」
ああ、この世界に救いはないのだな……と、少年は思った。
少年は当然のように首を縦に振った。
☆
タイムリミットは日が落ちるまで。
そう娘は言った。
狙うのは奴隷市場に向かう直前の食事の時間だ。
家族の団欒を邪魔したとあっては、あの主人の事だ……怒るに決まっている。
それに、娘のご機嫌取りのために見栄を張っているところがあると彼女自身も言っていた。
必ず怒る。そして自分は売られる。
完璧な作戦だと……。
少年は少し寂しかったが、他の仲間にさようならを伝えようと誰よりも早く小さな食堂へと向かった。
誰もいない。静かな食堂。
並べられた食器は自分へと何かを伝えようとしている、そんな気がした。
その時、仲間の一人が入ってくる。
疲れた様子の彼は、少年を一瞥すると少年の元まで走り寄る。
言葉になっていない何かを少年へ捲し立てると、手を握る。
少年にはわかった。何を言っているかではない、そんなものはわからなくても――彼の心の内側はわかった。
ごめんなさい、と少年は心の中で呟き食堂から出る。
少年は決意した。何も迷うことはなかったのだ。
☆
その後、今の少年の姿を見た者はいない。
この国に奴隷はもういないのだ。少年のおかげなのか、それは違う。
ただ、少年の住んでいたあの狭い部屋には、枯れた一つの花が置かれている。
少年の行った行動は正しかったのだろうか。
起承転結それのみを詰め込んだ。
少年は主人に何をしたのか、あるいは何もしなかったのか。
娘は何故赤ん坊を庇ったのか。
友人は何を喋ったのか。何を少年に伝えたのか。
描写がないだけで、こんなに妄想の世界が広がります。
例えば、少年は感情に任せ主人を殺してしまった……とか。
例えば、赤ん坊は娘とぼんくらが産んだ子供……とか。
例えば、友人は娘との会話を聞いていて、やめろと少年に言った……とか。
うん、ボツっぽいけど削除するのは名残惜しいので投稿した一作です。
とりあえずクリスマスに読むものではないですね☆