第93話 隠していた力
歴史館を出た直後だった。
ゴン。
足元が揺れた。
リーナが顔を上げる。
「……また?」
次の瞬間。
遠くから怒号が響いた。
「下がれ!!」
「近づくな!!」
ミカサが城壁の方を見る。
「騒がしいな」
ルークはすでにそちらへ視線を向けていた。
「行くぞ」
三人は通りを駆ける。
角を曲がる。
広場が見えた。
人々が逃げている。
その中央で――
石の巨体が暴れていた。
高さ10メートル。
ゴーレム兵士。
勇士たちが囲んでいる。
だが、押されていた。
剣が弾かれる。
槍が折れる。
「くそっ!」
「硬すぎる!」
大斧を持った戦士が跳び上がる。
振り下ろす。
ゴン!!
石が砕ける。
だが浅い。
次の瞬間。
ゴーレムの腕が振られた。
ドォン!!
戦士が吹き飛ぶ。
地面を転がった。
リーナが呟く。
「やばい……」
ルークはすでに前へ出ていた。
「加勢する」
ミカサが言う。
「せやな」
勇士の1人が叫ぶ。
「来るな!」
「危ないぞ!」
だが。
ルークは止まらない。
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
地面が砕ける。
その直前。
ルークは横へ滑り込んだ。
風を纏った剣が閃く。
ギン!!
足の関節に斬撃。
石が割れる。
巨体が揺れる。
勇士たちが目を見開く。
「速い……!」
リーナも飛び出した。
壁を蹴る。
屋根を蹴る。
一気に高度を取る。
頭上へ。
短剣を振り下ろす。
ガキン!!
石が裂けた。
その時だった。
ミカサが呟く。
「しゃあない」
ルークが一瞬振り向く。
「ミカサ?」
ミカサはため息をついた。
「ほんまは戦い嫌いやねんけどな」
地面に手をかざす。
「今はそんなこと言うてる場合ちゃうしな」
魔力が走った。
地面が震える。
次の瞬間。
石畳が盛り上がった。
ドゴォ!!
巨大な土の柱が突き上がる。
ゴーレムの足に直撃。
巨体がバランスを崩す。
勇士たちが叫んだ。
「魔導士!?」
リーナが振り向く。
「……え?」
ルークも驚いていた。
「ミカサ」
「お前」
「魔導士だったのか?」
ミカサが肩をすくめる。
「隠してたわけちゃうよ」
もう一度手を振る。
地面が動く。
石と土が絡み合い、鎖のように絡みつく。
ゴーレムの脚が固定される。
「使うタイミングなかっただけや」
リーナが叫ぶ。
「聞いてないんだけど!?」
ミカサが笑う。
「今はそんな話してる場合ちゃうやろ」
ルークを見る。
「早よ終わらすんやろ?」
ルークが笑った。
「そうだな」
次の瞬間。
地面が砕けた。
ルークが突っ込む。
一瞬で距離を詰める。
ゴーレムの胸へ。
剣が振り抜かれる。
ドン!!
石が裂ける。
さらに踏み込む。
2撃目。
3撃目。
バキン!!
胸の魔石が砕けた。
光が消える。
ゴーレムの動きが止まる。
そして――
ドォォン。
巨体が崩れ落ちた。
広場に静寂が戻る。
勇士たちが呆然と立っていた。
「……倒した」
リーナが息を吐く。
「終わった?」
ルークが頷く。
「終わりだ」
勇士の1人が近づいてきた。
さっき吹き飛ばされた大斧の戦士だ。
ルークを見る。
そして、笑った。
「助かった」
「正直、手こずってた」
リーナが言う。
「強かったね」
「普通のゴーレムじゃなかった」
戦士は頷いた。
「街の防衛兵器だ」
「だが、勝手に動くことはない」
ミカサが眉を上げる。
「つまり」
「誰かが動かした?」
戦士は少し黙り、答えた。
「……分からん」
そして改めてルークたちを見る。
「だが」
「腕は確かだ」
ニヤリと笑った。
「今夜、酒でもどうだ?」
ミカサがすぐ答える。
「それはええな」
リーナが笑う。
「決まりね」
ルークも肩をすくめた。
「付き合うよ」
その時だった。
遠くの山の奥。
ほんの一瞬。
空の雲が、不自然に渦を巻いた。
だが、その異変に気づいた者は――
まだ、誰もいなかった。




