第80話 王国と英雄
砂海の主が倒れてから三日後。
ラシード王国の王都。
白い石で造られた王城の大広間には、多くの人が集まっていた。
ラシード王国の大臣。
採掘局の役人。
そして――
各国から来た使節団。
理由は一つ。
砂海の主討伐。
その報告だった。
大臣が静かに言う。
「本来ならば国家討伐級の災害」
「それを――」
ルークを見る。
「たった一人の英雄が止めた」
広間がざわつく。
異国の使節たちが視線を向ける。
「あれが竜騎士か」
「ドラゴン討伐の噂は本当だったのか」
「まだ若い……」
ルークは少し居心地が悪そうだった。
リーナが小声で言う。
「完全に見世物ね」
ルークは苦笑する。
「慣れないな」
その横で。
ミカサは完全に別の表情をしていた。
周囲の貴族や使節の顔を一人一人観察している。
リーナが気づく。
「……何見てるの?」
ミカサが小声で答える。
「値段」
リーナが呆れる。
「何の?」
ミカサはにやっと笑う。
「英雄の」
大臣が続ける。
「竜騎士ルーク」
「ラシード王国は、あなたへ正式な感謝を表す」
拍手が起きる。
しかしその直後。
他国の使節たちが一斉に近づいてきた。
「竜騎士殿」
「我が国にも問題がありましてな」
「魔獣災害が起きており――」
「ぜひ討伐をお願いしたい」
ルークが少し困った顔をする。
「え?」
その瞬間だった。
ミカサが一歩前に出た。
「ちょっと待った」
関西弁が広間に響く。
使節たちが振り向く。
ミカサは笑っていた。
「悪いなぁ皆さん」
「今は受付中止中や」
使節たちがざわつく。
「受付中止?」
ミカサは肩をすくめる。
「兄ちゃんはな」
「トリビエン王国から派遣されとる」
「今回は友好国ラシードの案件」
「勝手に他国の依頼受けたら外交問題や」
広間が静まる。
確かにその通りだった。
使節たちが顔を見合わせる。
ミカサは続ける。
「せやけど安心してや」
「話は聞く」
「後日な」
使節団は渋々引き下がった。
リーナが小声で言う。
「……助かった」
ルークはミカサを見る。
「ありがとう」
ミカサは小さく笑った。
「気にせんでええ」
そしてぼそりと呟く。
「英雄が国の持ち物になるんは」
「一番あかん」
その時だった。
ラシードの大臣が再び口を開く。
「竜騎士ルーク」
「もう一つ頼みたいことがある」
ミカサが小さく言う。
「来たな」
大臣は続ける。
「砂海の主は倒れた」
「だが問題は終わっていない」
広間が静まる。
大臣がゆっくり言う。
「採掘場の地下」
「そこに巨大な空洞がある」
リーナが呟く。
「地下……」
大臣は頷いた。
「砂海の主は」
「そこから追い出されるように地上へ出た」
ミカサが腕を組む。
「つまり」
「もっとやばいのがおる可能性」
大臣はルークを見た。
「地下調査をお願いしたい」
「この国の未来がかかっている」
ルークが口を開こうとした。
しかし――
ミカサが前に出た。
「ちょっと待ち」
広間がざわつく。
ミカサは大臣を真っ直ぐ見る。
「話は最後まで聞くけどな」
「条件あるで」
大臣が眉をひそめる。
「条件?」
ミカサはにやりと笑った。
「もし地下の原因が採掘の影響やった場合」
「石油採掘の権利」
指を一本立てる。
「1%」
広間が凍りつく。
ミカサは続ける。
「期間は10年」
「英雄様の活動資金に充てさせてもらう」
役人たちが騒ぐ。
「ば、馬鹿な!」
「石油利権だぞ!」
ミカサは肩をすくめる。
「せやな」
「でもな」
採掘場の方向を指さす。
「地下が原因で採掘止まったら」
「この国の損失どれくらいか」
大臣を見る。
「言わんでもわかりはるやろ?」
広間は静まり返った。
ミカサはにやっと笑う。
「断る損失と」
「支払う損失」
「どっちが安いか」
そして軽く言った。
「なぁっ大臣さん」
沈黙。
しばらくして。
大臣が深く息を吐いた。
「……交渉成立だ」
広間がどよめく。
リーナが小声で言う。
「すごい……」
ルークも苦笑した。
「完全に任せた方がいいね」
ミカサは笑った。
「せやろ?」
そして採掘場の方向を見る。
「地下か」
少し目を細める。
「これは」
「ほんまに大きい商売の匂いするで」
砂漠の風が王城の窓から入り込む。
古代生物が現れた地下。
そこにはまだ――
誰も知らない秘密が眠っている。
そして。
英雄と商人の新しい冒険が
今、始まろうとしていた。




