第八話 迫りくる影
翌日。
ルークとエリシアは、いつものように依頼を終えて町へ戻る道を歩いていた。
夕方の街道には、行き交う旅人たちの姿がある。
その中で――
ひときわ鋭い視線が混じっていた。
フードを深く被った男。
すれ違いざま、じっとエリシアを見つめる。
視線が絡んだ一瞬。
エリシアの胸が、ひやりと冷える。
(……今の人)
だが振り返ったときには、もう人波に紛れていた。
嫌な予感だけが残る。
その夜。
町から離れた街道を、一団が駆けていた。
馬の蹄が土を蹴り上げる音。
松明の火が闇を切り裂く。
「旅人の証言は確かか」
「銀髪の少女だ」
「間違いない」
「伯爵家の娘、エリシアだ」
鎧に身を包んだ男たち。
胸に刻まれた伯爵領の紋章。
「この町――バルバラに滞在しているとのことだ」
隊長格が低く命じる。
「今度こそ逃がすな」
「抵抗する者がいれば処分して構わん」
冷たい空気が広がった。
一方その頃。
宿の食堂。
「そろそろ、この町も長居しすぎかな」
ルークが湯気の立つスープをすくいながら言った。
「……そうですね」
「エリシアの事情もあるし」
「次は別の国を目指すのもありだと思う」
「目的地を決めずに旅するのも、楽しそうだよね」
エリシアは小さく笑う。
「不思議ですね……怖いはずなのに」
「ルーク様と一緒だと、少し楽しみです」
穏やかな時間。
だが――
その裏で、影は確実に迫っていた。
夜更け。
ルークは理由もなく目を覚ました。
(……なんだ?)
胸の奥がざわつく。
UIを見ても異常はない。
だが、窓の外で一瞬だけ光が揺れた気がした。
(気のせい……か)
それでも不安は消えない。
隣の部屋で眠るエリシアを思い浮かべる。
(守るって言ったんだ)
(絶対に)
知らぬ間に――
運命は静かに動き出していた。




