第78話 砂漠の報酬
砂海の主の巨体が砂の上に横たわっていた。
採掘場にはまだ静寂が残っている。
誰もが言葉を失っていた。
やがて一人の作業員が膝をつく。
「……助かった」
その声をきっかけに、周囲の作業員たちが頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「命拾いしました……!」
「もう終わりだと思ってた……」
リーナが少し照れくさそうに言う。
「ルークに言って」
ミカサが笑った。
「そらそうや」
ルークは頭を掻いた。
「みんな無事でよかった」
その時だった。
遠くから馬の音が響く。
砂煙を上げて数人の騎兵が近づいてくる。
ラシード王国の役人だった。
隊長らしき男が怪物の死体を見て固まる。
「……これは」
作業員が答えた。
「竜騎士様が倒しました」
役人の目が見開かれる。
「本当に……」
「竜を討った英雄か」
ミカサが小声で呟く。
「いやもう」
「世界級やん」
役人がルークへ歩み寄る。
「ラシード王国を代表して礼を言う」
「採掘場はこの国の命だ」
「あなたは国家を救った」
ルークは首を振る。
「依頼を受けただけです」
役人は笑った。
「それができる者がいないのだ」
その時。
ミカサが前に出た。
「で?」
役人が眉をひそめる。
「なんだ?」
ミカサは怪物を指さす。
「この怪物」
「素材はどないするん?」
役人が固まる。
リーナが苦笑する。
「さすが商人」
ミカサは続ける。
「古代生物や」
「牙、鱗、魔核」
「全部国家級の素材やで?」
役人たちの表情が変わった。
ミカサは肩をすくめる。
「英雄にタダ働きさせる気やないやろ?」
沈黙。
役人が咳払いをする。
「……もちろん報酬は出す」
ミカサは即答した。
「国家依頼」
「竜級討伐」
「しかも古代生物」
指を三本立てる。
「普通の相場の三倍やな」
役人が目を見開く。
「三倍だと?」
ミカサは笑った。
「嫌ならええで」
「他国が買うやろうし」
沈黙。
リーナが小声で言う。
「強い」
ルークも苦笑した。
「頼もしいね」
しばらくして。
役人が深く息を吐く。
「……わかった」
「王へ報告する」
ミカサがニヤッと笑う。
「仮契約成立ってことやな」
「ええ返事待ってるで」
そしてルークを振り返る。
「兄ちゃん」
「英雄はな」
「戦うだけやない」
「稼がなあかん」
ルークは笑った。
「勉強になる」
砂漠の風が吹く。
竜を討った英雄。
そして商人。
二つの力が交わり始めていた。
遠くで採掘塔が煙を上げている。
ラシード王国の問題は終わった。
だが――
英雄の名は
今、確実に世界へ広がっていた。




