第76話 砂海の主
砂竜の死体が砂の上に横たわっていた。
採掘場にはまだ緊張が残っている。
作業員たちは遠巻きにルークを見ていた。
ミカサがぽつりと言う。
「……いや待って」
「これでもまだ何かおるん?」
ルークは地面を見ていた。
砂の下。
深く。
魔力がうねっている。
「うん」
静かに答える。
「もっと大きい」
リーナが眉をひそめた。
「さっきのより?」
ルークは頷く。
その瞬間だった。
ドン――
低い振動。
採掘場の地面が揺れた。
鉄骨の塔が軋む。
作業員が青ざめる。
「また来る!」
だがルークは首を振った。
「違う」
「これは……」
「上がってきてる」
次の瞬間。
採掘坑の奥から砂が爆発した。
巨大な砂柱が空へ吹き上がる。
地面が割れる。
そして――
それは現れた。
蛇のような巨大な体。
岩のような鱗。
採掘場を覆うほどの巨体。
そしてドラゴンにも似た巨大な頭。
ミカサが声を失う。
「……嘘やろ」
リーナも言葉を失った。
「これ……」
ルークはその姿を見上げる。
そして呟いた。
「古代生物……」
リーナが聞く。
「知ってるの?」
ルークはゆっくり頷いた。
「砂海の主だ」
少し目を細める。
「ゲームにも登場してたやつだな」
ミカサが首をかしげる。
「ゲーム?」
ルークは苦笑する。
「昔読んだ資料みたいなものだよ」
「古代の怪物の記録」
ミカサは納得したようなしないような顔をした。
だが次の瞬間。
砂海の主が動いた。
巨大な体が砂を押し上げる。
採掘場の地面が波のようにうねる。
ミカサが叫んだ。
「これあかんやつや!」
ルークは周囲を見る。
作業員。
採掘塔。
街の方向。
ここで暴れれば被害が出る。
「リーナ」
「避難誘導」
「了解!」
影が伸びる。
重力操作。
作業員たちの体が安全な方向へ運ばれる。
ミカサも叫ぶ。
「こっちや!」
「早よ走れ!」
「止まるな!」
商人とは思えない指示。
作業員たちが一斉に動き出す。
リーナが驚く。
「指示うまいね」
ミカサは振り返らず言う。
「商売は命かかっとるからな」
その頃。
ルークは剣を抜いていた。
氷の魔剣。
冷気が砂漠の空気を切り裂く。
目の前には古代の怪物。
ルークは小さく息を吐く。
「さて」
怪物の巨体を見上げる。
「ドラゴンより大きいな」
砂海の主が咆哮した。
空気が震える。
砂嵐が巻き上がる。
そして巨体が動いた。
地面が崩れる。
砂の津波が押し寄せる。
ルークは踏み込んだ。
重力加速。
一瞬で怪物の懐へ入る。
氷剣を振る。
だが――
キィン!!
刃が弾かれた。
リーナが叫ぶ。
「硬い!」
ルークは少し笑った。
「いいね」
「こういうの久しぶりだ」
その時。
記憶がよぎる。
ゲームのボス図鑑。
巨大な砂漠ボス。
ルークが呟く。
「……確か」
「こいつ」
「砂嵐のあとに隙ができる」
リーナが矢を構える。
「本当?」
ルークが目を細める。
「たぶん」
「ゲーム通りならね」
その瞬間。
砂海の主が尾を振る。
巨大な衝撃。
採掘塔の一部が吹き飛ぶ。
ルークは跳んだ。
だが次の瞬間。
怪物の口が開く。
黒い光が集まる。
ミカサが遠くで叫ぶ。
「うちでもわかる!!それやばいやつや!」
砂嵐のブレス。
無数の砂が刃のように襲う。
ルークは重力障壁を展開。
砂嵐が弾ける。
視界が砂で埋まる。
そして――
砂嵐が止んだ。
その瞬間。
砂海の主の動きが止まった。
巨大な体がわずかに硬直している。
ルークが静かに言う。
「……やっぱりだ」
リーナが叫ぶ。
「隙!」
ルークが剣を構える。
「行くぞ!」
砂漠の怪物。
古代の支配者。
その巨体が今――
初めて動きを止めた。
英雄の一撃が
次の瞬間、放たれようとしていた。




