第74話 砂の国の女商人
砂漠の風が吹き抜けた。
市場の喧騒が少し遠ざかる。
ミカサは二人を見ながら腕を組んだ。
「で?」
「竜騎士さんは採掘場行くんやろ?」
ルークが頷く。
「うん」
「魔物の件で」
ミカサは軽く笑った。
「やっぱりな」
「この街の商人なら誰でも知っとる」
リーナが聞く。
「そんなに有名なの?」
ミカサは肩をすくめた。
「ここ最近ずっとや」
「魔物が増えすぎとる」
「採掘場の連中もかなり困っとる」
ルークは遠くの黒煙を見た。
石油採掘塔。
砂漠の空に黒い煙が伸びている。
「案内したる」
ミカサが言った。
リーナがすぐに反応する。
「なんで?」
ミカサは笑った。
「言うたやろ」
「商売や」
「英雄と知り合いになっといたら損ないやろ?」
リーナは少し呆れた顔をした。
「正直ね」
ミカサは指を立てる。
「商人はな」
「嘘ついたら信用失うんや」
そして歩き出した。
「ほら」
「ついてき」
三人は一旦護衛の兵士たちと別れ
市場を抜ける。
街の外へ向かう道。
砂漠の熱風が強くなる。
リーナが顔をしかめた。
「暑……」
その時。
ミカサが布を差し出した。
「巻いとき」
「砂漠は太陽もやけど風も体力奪うねん」
リーナは少し驚く。
「……ありがと」
ミカサは笑った。
「気にせんでええ」
「商人は客に優しいんや」
そして歩きながらルークを見る。
じっと観察するような視線。
ルークは少し気まずくなった。
「どうしたの?」
ミカサは笑う。
「いや」
「ほんまに竜倒した人なんやなぁって」
少し間。
「思ったより普通や」
ルークは苦笑する。
「よく言われる」
その時。
風が強く吹いた。
ミカサの髪が大きく揺れる。
太陽の光が胸元と髪を照らす。
ルークは一瞬、目を奪われた。
思わず息を呑む。
(……綺麗だな)
ミカサがそれに気づいた。
くすっと笑う。
「どしたん?」
ルークは少し慌てる。
「いや……」
「綺麗な人だなって」
つい思っていたことを言葉にしてしまった
その瞬間。
横から声が飛んだ。
「へぇ」
リーナだった。
腕を組んでいる。
「見る目あるんだ」
ルークが振り向く。
「え?」
リーナはそっぽを向く。
「別に」
「何でもない」
ミカサがニヤニヤする。
「おーおー」
「これは面白いな」
リーナが睨む。
「違うから」
ミカサは笑った。
「ほんま?」
ルークは困った顔になる。
「……?」
状況がわかっていない。
ミカサはそれを見てさらに笑った。
「天然やな」
しばらく歩く。
街が遠ざかる。
砂漠の景色が広がる。
遠くには採掘場。
黒い煙が上がる巨大な塔。
ミカサが指差した。
「あれや」
「ラシードの金の源」
「石油採掘場」
リーナが言う。
「すごい規模ね」
ミカサは頷いた。
「この国はこれで成り上がった」
少し間。
「せやけどな」
声が少し低くなる。
「最近ちょっとおかしい」
ルークが聞く。
「魔物?」
ミカサは頷いた。
「増え方が普通やない」
「なんかに追い出されとるみたいな感じや」
ルークは地面を見る。
砂の下。
静かに魔力を感じ取る。
「……」
リーナが聞く。
「どうしたの?」
ルークはゆっくり言った。
「この下」
「魔力が動いてる」
ミカサが止まる。
「下?」
その瞬間。
遠くから叫び声が聞こえた。
「魔物だ!」
採掘場の方から作業員が走ってくる。
その背後。
砂煙の中から飛び出してくる影。
砂漠狼の群れ。
数は十を超えていた。
リーナが驚く。
「多い!」
ミカサが小さく言う。
「ほらな」
「増えとる」
ルークは静かに剣を抜いた。
氷の魔剣。
冷気が砂漠の熱を押し返す。
「とりあえず」
「片付けよう」
次の瞬間。
ルークの姿が消えた。
重力加速。
一瞬で魔物の群れへ踏み込む。
氷の斬撃が走る。
砂漠狼が一撃で凍り砕けた。
二撃。
三撃。
数秒後。
魔物はすべて地面に転がっていた。
静寂。
作業員たちが呆然としている。
ミカサがぽつりと言う。
「……ほんま化け物やな」
ルークは剣を収める。
そして再び地面を見た。
砂の下。
もっと深く。
何か巨大なものが動いている。
ルークの目が少し細くなる。
「……これは」
「少し面倒かもしれない」
砂漠の風が強く吹いた。
地下で何かが蠢いている。
まだ誰も――
その正体を知らない。




