第72話 英雄の代価
翌日。
街のギルド倉庫には重苦しい空気が漂っていた。
鑑定士と役人たちが何度も書類を確認し、額に汗を浮かべている。
「……結論は変わらん」
役人の一人が深く息を吐いた。
「この街では、全素材を買い取ることは不可能だ」
「予算を遥かに超えている」
ざわめき。
「よって――」
「素材を分割しての買取とする」
ルークが頷く。
「なら、爪と鱗を引き取ってください」
「残りは回収します」
役人たちが惜しそうに唸る。
「魔核まで手放されるとは……」
「国家レベルの宝ですぞ……」
だが決定は覆らない。
しばらくして――
倉庫の中央に、金貨の箱が積み上げられた。
一箱。
二箱。
三箱。
四箱。
五箱。
金属音が重く響く。
「……これが買取額だ」
「概算で、約五十億相当」
沈黙。
次の瞬間。
「……は?」
リーナが固まった。
依頼人の男は腰から崩れ落ちた。
「ご、五十……?」
「村いくつ作れるんだ……」
ルークだけが首を傾げる。
「結構いただけたな」
「本当命の危険は感じたし」
ルークは少し考え、
「まっ頂けるものはいただいておこう」
と納得した。
そして影を広げ、残りの素材を収納する。
役人たちが未練たっぷりに見送る。
「それだけでも国宝級なのに……」
ルークは一箱を持ち上げ、依頼人へ差し出した。
「これ、村の復興に使ってください」
男が震える。
「い、いや……」
「本来、私が払う側で……」
「足りないかもしれません」
ルークは静かに言った。
「失った人は戻らない」
「でも、生きている人は前に進めます」
「そのための金です」
男は泣き崩れた。
「……ありがとう……」
「ありがとうございます……!」
残りの箱を見て、ルークは考える。
(孤児院に回そう)
(あとはリーナの分も確保しておこう)
金には執着がなかった。
使う場所があるなら、それでいい。
数日後。ルークは王都に戻っていた。
王都からの使者がルークを尋ねにきた
ドラゴン討伐の報せは、すでに国中へ広がっていたようだった。
「王族より召喚命令」
「正式な功績授与式が行われる」
王都。
大広間。
貴族と騎士が並ぶ中、ルークは中央へ進む。
王が立ち上がった。
「翼竜討伐の功績」
「これにより、汝に竜騎士の位を授与する」
剣が肩に触れる。
「加えて――」
「騎士爵位を授ける」
場がどよめいた。
平民かもわからない冒険者から一気に貴族階級。
異例中の異例。
リーナが目を見開く。
「……あんた、もう別世界の人じゃない」
ルークは小声で返す。
「そんなことないよ」
「リーナといつも一緒だよ」
「何!いきなり」
照れるリーナ
だが。
この瞬間。
ルークは正式に――
国家に認められた英雄となった。
そして物語は、
街の冒険者から
国の中枢へ関わる存在へと進化していく。




