第七話 打ち明ける夜
その日の依頼を終え、二人は宿へ戻った。
夕暮れの空は雲がかかり暗くなるのが早く感じ、町には一日の終わりを告げる鐘の音が響いている。
食堂には温かな灯りがともり、木のテーブルには煮込み料理と焼きたてのパンが並べられていた。
湯気の向こうで、エリシアはどこか落ち着かない様子だった。
「今日は……お疲れさまでした」
「エリシアさんもだよ。すごく助かった」
短い沈黙。
スプーンを持つ手が、わずかに震えている。
「……ルーク様」
「うん?」
「お話ししなければならないことがあります」
彼女は視線を落としたまま、静かに続けた。
「今まで……言えずにいました」
「正直にお話しすれば、
きっと迷惑をかけてしまうと思っていたからです」
「だから……黙って去ることも考えました」
ルークは驚いて顔を上げた。
「ですが、それは……とても不誠実だと思いました」
「ここまでお世話になって、
命まで預け合ったのに……」
深く息を吸い込む。
「私は――没落した貴族の娘です」
静かな言葉が、空気を震わせる。
「追われる立場です」
「私と一緒にいることで、
ルーク様にも危険が及ぶかもしれません」
しばらく沈黙が流れた。
料理の湯気だけが、ゆらゆらと揺れている。
「それを知ったうえで……
それでも一緒にいてくださるかどうか……
選んでほしかったのです」
声が、かすかに震えた。
「卑怯だとは思います」
「ですが……私からこの関係を切る決断ができないのです」
「だから……ルーク様に選んでいただきたいのです」
胸を締めつけるような沈黙。
数秒が、永遠のように感じられた。
そして――
ルークは、朗らかに笑った。
「それが答えだよ」
エリシアが目を見開く。
「エリシアが生きやすい環境になるまで、
一緒に旅をしよう」
「まだまだ弱い僕だけど」
「君の力になりたい」
「いや……一緒に強くなろう」
その言葉が胸に届いた瞬間。
堪えていたものが、一気に溢れた。
ぽろり。
ぽろりと、涙がこぼれ落ちる。
婚約者の裏切り。
家族の死。
追われ続けた日々。
冷たかった世界の中で――
初めて触れた、温かさだった。
「……ありがとうございます……」
声にならない声で、そう呟く。
涙の向こうで、エリシアは笑っていた。
その夜、二人の旅は――
ただの同行ではなく、共に生きる旅へと変わった。




