第64話 育つ場所
孤児院は、本格的に動き出した。
集まった子供たちは年齢も境遇もばらばらだった。
2歳の幼子。
12歳の一番上。
共通しているのは――
行き場がなかったこと。
だが、ここはただ寝て食べる場所じゃない。
「いずれ、ここを巣立つ場所だ」
それがルークたちの最初の約束だった。
まず始めたのは読み書き。
だが強制はしない。
「楽しく覚える」が基本だった。
文字カード。
絵と一緒に覚える遊び。
簡単な計算はおはじきで。
笑い声が絶えない。
「わかった!」
「読めた!」
小さな成功が積み重なっていく。
次に開かれたのは“仕事を知る日”。
ギルドの手が空いた冒険者が来る。
「まず覚えろ」
「命を守るのが一番の仕事だ」
剣の持ち方。
逃げ方。
仲間を守る立ち位置。
別の日には商人が来た。
「儲け話だけが商売じゃない」
「信用が一番の財産だ」
農夫は作物の話をし、
漁師は海の怖さを語った。
子供たちは目を輝かせる。
世界は思っていたより広かった。
「将来、何になりたい?」
問いかけに答えはさまざまだ。
「まだわかんない!」
「商人!」
「強い冒険者!」
一番年上の少年が言った。
「俺……冒険者になる」
真っ直ぐな目だった。
その日から本格的な訓練が始まった。
生き延びる術。
無謀をしない判断。
大人たちは真剣だった。
「時間は有限だ」
「ここにいる間に、できるだけ渡してやろう」
それが願いだった。
数日後。
一人の母親が子供を連れて訪ねてきた。
「ここで……読み書きや計算を教えてもらえるって」
パウロは即答した。
「ええ、もちろんです」
「ただし月謝制になります」
高額ではない。
運営を支える最低限だけ。
「払うからこそ」
「真剣に学べますから」
払う責任感というものを親にも子にも理解して欲しかったのだ、
家計に余裕がある家そうではない家によって支払う金額は変えてある。
基本皆が受けやすくしているのだ。
それでも個人で専門の家庭教師を雇うことを考えれば、とても安い。
その仕組みはすぐ広がった。
参加者は日に日に増えていく。
孤児院は、街の学び場になっていった。
ルークはその様子を眺めながら思う。
一代で成り上がる者は多い。
だが子供の教育は後回しになる。
貴族になっても学校へ行けず、
家に閉じ込められ、
誰とも交われず育つ子もいる。
――ヤーフのように。
「……もし」
「こういう場所があったなら」
未来は違っていたかもしれない。
答えはもう戻らない。
だが。
次の世代は変えられる。
ルークは静かに空を見上げた。
ここはもう孤児院じゃない。
街の未来を育てる場所だった。




