第63話 小さな家の、大きな朝
朝。
孤児院の中庭に、子供たちの声が響いていた。
「ルークー!」
「起きてー!」
扉が勢いよく叩かれる。
「まだ朝だぞ……」
眠そうに出てきたルークの足元に、子供たちが群がった。
「ごはんー!」
「一緒に食べよ!」
「鬼ごっこしよ!」
一瞬で囲まれる。
「ちょ、待て待て」
「順番!」
少し離れた場所でリーナが腕を組む。
「……調子に乗って」
「一晩で人気者ね」
パウロが苦笑する。
「もう英雄ですよ」
「ちっ……」
そう言いながら、視線はどこか優しい。
朝食。
長いテーブルに子供たちがずらりと並ぶ。
ルークは両隣を挟まれ、完全に身動きが取れない。
「これ取って!」
「それちょうだい!」
「ルーク!」
給仕係と化していた。
リーナが見かねて立ち上がる。
「ちょっとあんた」
「自分の分くらい食べなさいよ」
「いや、この子たちが……」
「はいはい」
皿を奪い、手早く配る。
「順番」
「押さない」
「落ち着きなさい」
一瞬で静まる。
完全にお母さんだった。
ルークがぽつり。
「リーナの方が向いてるね」
ピタッ。
「……は?」
「孤児院の先生」
「すごい自然だし」
リーナの頬が一気に赤くなる。
「ばっ……!」
「なに言ってんのよ!」
「私はただ!」
「騒がしいから整理してるだけ!」
「好きでやってるわけじゃ――」
服を引っ張られる。
「リーナ、これ美味しい!」
「ほんとだね」
反射で笑顔。
気づいて固まる。
「……ちがっ」
「今のは……その……」
ルークがニヤッとする。
「楽しそうだったよ」
「うるさい!」
昼。
中庭は鬼ごっこで大騒ぎ。
ルークも巻き込まれる。
「待てー!」
「早いー!」
リーナは木陰で腕を組んで見ていた。
「子供みたい」
でも目はずっと追っている。
転びそうな子をルークが抱き上げ、笑わせる。
リーナの口元が緩む。
「……ほんと、バカ」
その時。
小さな女の子が首をかしげた。
「ねぇ」
「ルークとリーナって付き合ってるの?」
一瞬で空気が止まる。
「ちがう!!」
「違うから!!」
二人同時。
「でも」
「いつも一緒じゃん」
沈黙。
リーナの耳が真っ赤になる。
「それは!」
「仕事で!」
「たまたまで!」
ルークも慌てる。
「そうそう!」
「たまたま!」
子供たちは顔を見合わせてくすくす笑った。
夕方。
子供たちは昼寝。
中庭は静かになる。
ルークが隣に座る。
「楽しかった?」
「……別に」
「嘘」
「楽しかった顔してたし」
「してない!」
「してた」
そっぽを向く。
「……少しだけよ」
風が吹く。
「ここ」
リーナが小さく言う。
「いい場所だね」
「うん」
「怖いこともあったけど」
「今は……安心する」
ルークが静かに言う。
「リーナが守った場所だよ」
「違う」
「みんなで作ったの」
少し間。
「でも……ありがとう」
かすかな声。
聞き返す前に立ち上がる。
「な、なに聞き返そうとしてんのよ!」
「何でもないから!」
耳まで赤い。
ルークは笑った。
夕焼けが孤児院を包む。
ここはもう――
悲しみの終点じゃない。
未来の始まりだった。




