第六話 初依頼と、剣士の天命
翌朝。
簡易相談所の掲示板の前で、ルークとエリシアは並んで立っていた。
貼られている依頼は――
魔獣退治。
荷物運び。
街道の見回り。
「……レベルを上げるなら、これ一択だな」
視線は自然と魔獣退治へ向かう。
命の危険はある。
だが経験を積めるのは戦いだけだ。
「この辺りの小型魔獣なら……」
危険度が低めと記された依頼を手に取る。
「これなら無難そうだな」
「魔獣退治……ですか」
エリシアの声にわずかな緊張が混じる。
「無理はしませんよ?」
「もちろん。危なそうならすぐ引く」
奥からジルが顔を出した。
「お、初仕事かい?」
「はい」
「ところで坊主、センスは何だ?」
「……センス?」
「天命で授かる力ってやつだ」
ジルは目を丸くした。
「嘘だろ。そんなことも知らずに冒険してたんじゃないだろうな」
「どんな辺境から来たんだよ」
呆れたように頭をかき、棚から一枚の紙を取り出す。
古びているが、不思議と破れも汚れもない。
「これに触れて意識を集中すると、
レベルとセンス、それから属性が浮かび上がる」
「火、水、風、土、光、闇……な」
半信半疑で触れると、文字がふわりと浮かんだ。
――レベル:12
――センス:剣士Ⅰ
――属性:無属性
「剣士か。悪くねぇ」
エリシアも静かに頷く。
(ゲームにはなかった仕組みだな……)
ふと自分のUIを見る。
HP、攻撃力、補正値、スキル一覧まで細かく表示されている。
(……俺の方が圧倒的に高性能だな)
思わず内心で笑った。
依頼先は町の外れの林だった。
風が草を揺らし、鳥の声が響く。
不意に影が跳ねた。
「角ウサギです!」
その瞬間、エリシアが踏み込んだ。
流れるような足運び。
剣が美しい弧を描く。
一閃。
魔獣は抵抗する間もなく倒れ伏した。
「……すごいね、エリシアさん」
思わず声が漏れる。
「こんなに綺麗な剣、初めて見たよ」
「い、いえ……」
エリシアは少し視線を逸らす。
「昔、少し嗜んでいただけです」
「それに……片手剣を新調してくださったので」
「短剣より扱いやすくて……」
誤魔化すように微笑む。
(少し、か……)
ルークは内心首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。
次の角ウサギが現れる。
二人で位置を取り、確実に仕留めていく。
自然と息が合ってきていた。
だが――
草むらが大きく揺れた。
狼型の魔獣が姿を現す。
「ルーク様……あれは」
「俺が引きつける!」
剣を構え、スキルを選択。
――特殊スキル:真空斬り Lv1
「……真空斬り!」
剣を振り抜いた瞬間、空気が裂ける。
刃の数センチ先まで伸びた斬撃が魔獣をかすめた。
血が弾ける。
エリシアの瞳が揺れた。
(昨日は、確かに使っていなかった技)
剣を振る動き自体は、普通の斬撃。
だが――
(剣技を身につけるには、本来は鍛錬が必要なはず)
(あの方の剣捌きで、習得できるような技ではない)
胸の奥に、小さな疑問が芽生える。
二人で追撃し、魔獣は倒れ伏した。
その後も角ウサギが現れる。
「私も、行きます」
迷いのない足取り。
一閃。
静かに魔獣が崩れ落ちた。
「……これで、私も自分の力で稼げます」
剣を収める背中には、確かな覚悟が宿っていた。
だが胸の奥には、消えない疑問が残る。
(ルーク様の、あの技……)
(普通ではありません)
初めての依頼は成功だった。
剣士のセンス。
特殊な剣技。
そして二人の連携。
この世界で生きていく道は、確かに動き出していた。
(強くなれる)
(ここからだ)
ルークは剣を握りしめた。




