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第56話 港に沈む闇

第56話 港に沈む闇


夕刻。


ブリッセル港はまだ騒がしかった。


魚籠を運ぶ漁師。

積荷を下ろす商人。

怒号と笑い声が混じる喧騒。


その隅。


メールカリ商会の倉庫前だけ、妙に静かだった。


「……来た」


影からルークが呟く。


荷車を引いた数人の男たち。


顔に傷。

目つきが濁っている。


どう見ても真っ当な商人じゃない。


だが――


彼らは堂々と商会の受付に荷を預けていた。


大きな木箱。


六つ。


「受付時間、もう過ぎてるわよね」


「うん」


それでも商会側は何も言わない。


帳簿に記し、金を受け取り、黙って通す。


あまりにも自然。


まるで――いつものことのように。


男たちが去る。


港に人の流れが戻る。


だがルークは動かない。


視線は木箱だけを追っていた。


「……違和感ある」


「大きさの割に、扱いが慎重すぎる」


しばらくして倉庫前が無人になる。


ルークとリーナは影から滑り出た。


静かに箱へ近づく。


その瞬間――


コツン。


中から、微かな音。


引っ掻くような音。


呼吸。


「……生きてる」


リーナの顔が強張る。


ルークは蓋に手をかけ、わずかに開けた。


隙間から見えたのは――


怯えた目。


小さな肩。


口を塞がれ、縛られた子供。


さらに隣の箱。


若い女性。


その奥にも。


合計六人。


震えながら息を潜めていた。


「……やっぱり」


リーナの声が震える。


「人身売買ね」


説明はいらなかった。


ここで何が行われているか。


はっきりした。


「受付時間外」


「人相の悪い連中」


「手付金」


「確認もせず通す商会」


全部、繋がる。


ルークの目が冷たく細まる。


「黙認どころじゃない」


「完全に共犯」


箱の中の子供が小さく泣いた。


苦しかった。


暗くて。


息もできなくて。


「……大丈夫」


ルークは囁く。


「もう出してあげるからね」


リーナが歯を食いしばる。


「メールカリ」


「あいつは何にも変わっちゃいない」


港の喧騒が遠く聞こえる。


表では金と物流が回り。


裏では人が売られている。


ここはもう疑惑じゃない。


現実だ。


「戻ろう」


「証拠は十分」


六人を連れて影へ消える二人。


ブリッセルの港に、


はっきりと闇が浮かび上がった。


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