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第55話 刃の方向

富裕層地区。


石畳は磨かれ、街路樹は整えられている。


ブリッセルの中でも、明らかに空気が違う区画。


「……あっさり見つかったわね」


リーナが小声で言う。


白い外壁の大きな屋敷。


門の前には門兵が2人。


敷地内には巡回する護衛の姿。


「隠れる気はなさそう」


「むしろ誇示してる感じね」


門柱には刻まれていた。


――メールカリの家紋。


「未だ健在、か」


ルークは静かに屋敷を見つめる。


突入はできる。


夜ならなおさらだ。


だが――


「どうするの?」


リーナが問う。


ルークはすぐには答えなかった。


「できるだけ関係ない人間に被害は出したくない」


門兵も護衛も、雇われているだけだ。


罪があるとは限らない。


「もしこれが暗殺任務なら」


「迷わず斬るけど」


「でもこれは違う」


「誰の依頼でもない」


「俺たちの判断だ」


リーナが静かに頷く。


「世直し、ってやつ?」


「そんな立派なものじゃないけどね」


「ただ――」


ルークの目が細くなる。


「悔いているなら話は変わる」


「過去の罪を償おうとしているなら」


「選択肢はある」


「でも」


「まだ何もわからない」


パウロの顔が脳裏をよぎる。


娘を失い、時間が止まっていた父親。


もしメールカリが何も悔いていないなら。


保身のために隠しただけなら。


その結果、罪が続いているなら。


「……始末?」


リーナが静かに言う。


「その時は」


「覚悟を決める」


ルークの声は低かった。


二人はその場を離れた。


今は動かない。


まずは調べる。


メールカリという男。


商会の内情。


取引先。


出入りする人物。


「数日、様子を見る」


「焦る必要はない」


「相手は70過ぎの老人よ?」


「だからこそ油断しない」


ブリッセルの街は今日も動いている。


荷が運ばれ、金が動く。


その中心にいる男。


メールカリ。


背中は少し曲がり、だが紳士然とした佇まい。


顔も穏やかだった。


彼は本当に黒か。


それとも――

まだ知らない何かがあるのか。


二人は静かに動き出した。

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