第53話 揺れる馬車の中で
早朝。
街門の前に一台の馬車が止まっていた。
ギルドから借りた旅用の馬車。
荷台付きで、長距離移動にも耐えられる造りだ。
ルークが手綱を握る。
リーナが乗り込む。
「ねぇ、あんた馬車の運転したことあるの?」
「いや、見たことはあるだけ」
「えええーーっ!」
馬が歩き出し、車輪が石畳を鳴らした。
街が少しずつ遠ざかっていく。
畑道を進む。
揺れは思ったより穏やかだった。
風が心地いい。
「最初はどうなるかと思ったけど、意外にやるじゃない」
「お利口さんなお馬さんでよかったわぁ」
「いえいえ、僕の対応能力がすごいんだと思うよ」
「なにそれ、バカじゃない」
笑い合う。
「それにしても楽でいいわ」
少し沈黙。
リーナが窓の外を見る。
久しぶりの街の外。
「……二人きりだね」
「そうだね」
「変な感じ」
「嫌?」
「嫌じゃない」
一瞬、目が合う。
すぐ逸らす。
頬が赤い。
昼。
草原で馬を休ませる。
ルークが地面に魔法陣を描いた。
淡く光り、小さな簡易の家が現れる。
机、椅子、ベッド。
キッチンにトイレ、シャワールームまで完備。
「……は?」
「野営用」
「旅の概念壊してない?」
「便利だから」
「便利すぎでしょ!」
「本当にあんたって何者なの!」
「秘密!!」
「何それ!きもっ」
食事後。
外で並んで座る。
雲が流れる。
静かな時間。
「ねぇルーク」
「なに?」
「こういう何も起きない時間って」
「ちょっと幸せじゃない?」
「うん」
肩が触れる。
離れない。
「……全部終わったら」
リーナがぽつり。
「また旅に出るんだよね?」
「そうだね」
ルークは地図を広げる。
「次はこの辺かな」
「遠いね」
リーナがもぞもぞする。
「……私もついて行っていい?」
「え、いいけど」
「リーナこそ大丈夫?」
「街の仕事とかヤンさんとか」
「いいの」
「みんな私がいなくてもやっていける」
「街も前より平和だし」
「子供たちも安心して暮らせる場所ができるから」
「そっか。リーナさんがよろしければどうぞ」
ふざけた言い方。
「なにそれ」
「あんた一人じゃ危なっかしいからだかんね」
ツンが出る。
ルークは居心地よさそうに笑った。
夜。
簡易の家ではしゃぐリーナ。
見たこともない綺麗なキッチン。
輝く床。
シャワールームに感動。
部屋は別々。
疲れていたのか二人ともそのままぐっすり眠った。
翌日。
潮の匂いが混じる風。
遠くに港町。
畑と船が並ぶ街――ブリッセル。
「着いたね」
「ここからどんな奴がいるかわからない」
「気を引き締めないとね」
馬車は街へ入っていく。
恋の余韻を残したまま。
新たな闇の中心へ。




