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第五話 町散策と、準備

翌朝。


 宿の食堂には、朝の光が差し込んでいた。


 焼き立てのパンの香りと、温かいスープの湯気。

 昨夜の緊張が嘘のように、町は穏やかだった。


「今日は……どうされますか?」


 エリシアが控えめに尋ねてくる。


「せっかくだし、町を見て回ろうと思って」


「町を……ですか?」


「うん。ついでに物資も揃えたいし」


 そう言いながら、ルークは彼女の腰元に目を向けた。


 あるのは――短剣一本。


(今思えば……)


 盗賊に襲われ、金も荷物も失ったと聞いた。

 命からがら逃げてきたに違いない。


(多分、寝込みを襲われたんだろうな)


 この世界で短剣一本。


 魔獣どころか、凶暴な獣相手でも危うい装備だ。


「……エリシアさん」


「はい?」


「町を見て回るついでに、エリシアさんの物資を揃えよう」


「私の……ですか?」


「うん。回復薬とか、着替えとか、装備とか」


 ルークは彼女の短剣に視線を落とす。


「資金は僕に任せて」


「え……?」


 エリシアが目を見開いた。


「い、いえ……そんな……そこまで面倒になるわけには……」


「面倒じゃないよ」


 ルークは苦笑して首を振る。


「エリシアさん、この町に長居するつもりはないんでしょ?」


 彼女が言葉を探す間に、ルークは続ける。


「だったら、なおさら準備はしっかりしておいた方がいい」


「お金のことは、心配いらないから」


(ログインボーナスを見たら、まだまだゼニーもあるし。

 最初に木の下へ埋めたアイテムだって回収しに行けば、

 当面はどうにでもなるだろうしね)


 エリシアは少し唇を噛んでから、静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます。お言葉に甘えます」


 最初に向かったのは薬屋だった。


「癒し薬と、毒消し薬をください」


「はいよ」


 店主が並べた瓶は、見覚えのある“癒し薬”だった。


(ゲームのポーションより、ずっと地味だな……)


 だがこの世界では、これが普通なのだ。


 多めに購入し、リュックサックへ詰める。


「これだけあれば、しばらくは安心ですね……」


「うん。備えは大事」


 次は衣料店。


 旅人用の丈夫な服や外套が並んでいる。


 エリシアの今の服は、かなり傷んでいた。


 擦り切れ、色も褪せている。


「こちらなど、動きやすいですよ」


 勧められた服を手に取り、エリシアは戸惑った。


「……こんなに、きれいな服を」


「旅には必要だから」


 替えの服を数着と外套を購入した。


「……まるで別人みたいです」


「いい意味でね」


 彼女は照れたように笑った。


「……あとは武器だな」


「短剣よりは、もう少し良いものを」


 そうして向かったのは鍛冶屋だった。


 金属の打ち鳴らされる音が響いている。


「おうおう! いらっしゃい!」


 現れたのはがっしりした中年の男。


 腕や首、額には無数の傷跡。

 だが笑顔は陽気だった。


「武器かい? 防具かい?」


「彼女用に、軽めの武器を探してて」


「ほう?」


 エリシアを見てにやりと笑う。


「守る側と守られる側ってわけだな?」


「ち、違います!」


「ははは!」


 豪快に笑う。


「俺はジル。ここの鍛冶屋だ」


 親指で自分を指す。


「それとまあ、この町の相談役みたいなもんもやってる」


「相談役?」


「ここは小さな町でな。

 本格的なギルドなんて作れねぇ」


 鍛冶屋の隣を指差す。


 簡素な小屋と掲示板が見えた。


「魔獣退治や護衛、荷運びなんかの張り紙を出してる」


「旅人と町の人間をつなぐ、簡易相談所ってとこだ」


 そのとき奥から声がした。


「ジル、今お客さんかい?」


「おう、そうだよ!」


「そうだったのかい。

 またつまらない話でくっちゃべってるのかと思ったよ」


「ちゃんと説明してやるんだよ」


「はいはい、分かってるって」


 ジルは苦笑する。


(この人、完全に尻に敷かれてるな……)


 並べられた武器の中から、

 エリシア用に細身の片手剣を選んだ。


「短剣よりずっといい」


「……立派すぎます」


「命を守る道具だよ」


 エリシアはそっと柄を握った。


「……軽い」


「それがいい武器さ!」


 ふと、ルークは自分の剣に視線を落とす。


 刃の端が欠け、ところどころ白く傷んでいる。


(使い方が悪かったのか……

 それともレベルの低い剣だからか)


 戦いの現実を思い知らされる消耗具合だった。


(帰ったらログインボーナスを確認してみよう。

 まだ武器は残っているはずだ)


 町を歩くうち、荷物は少しずつ増えていった。


 だがエリシアの表情はどんどん明るくなる。


「こんなふうに準備できるなんて……久しぶりです」


「安心して旅できる方がいい」


 短剣一本の昨日とは違う。


 回復薬も、服も、武器もある。


(これ、ゲームの序盤装備集めみたいだな)


 だが今回は命に直結している。


 エリシアは新しい剣を抱えて微笑んだ。


「……ありがとうございます、ルーク様」


「どういたしまして」


 荷物を宿へ運び終えた帰り道。

 夕暮れの町を並んで歩いていると、エリシアがぽつりと口を開いた。


「……ルーク様」


「ん?」


「どうして……ここまでしてくださるのですか?」


「出会って、まだ一日も経っていないのに……」


 ルークは少し困ったように笑った。


(本当の理由なんて言えないよな)


 転生前。

 何度も画面越しに見てきた、大好きだったキャラクター。


 名前も、声も、雰囲気も。

 あまりに似すぎていて、初対面なのに懐かしい存在。


 だから放っておけなかった。


(この世界で最初に出会った人だったことも、

 きっと関係しているんだと思う)


「そうだね……」


「昔の知り合いに、すごく似ててさ」


「それで、なんとなく放っておけなかったんだ」


 少し照れたように頭を掻く。


「本当は、ただの自己満足かもしれないけど」


「それじゃ……ダメかな?」


「ダメじゃありません」


 エリシアは小さく首を振った。


「ですが……もし私が、とても悪い人間だったらどうするのですか?」


「えっ。悪い人なの?」


「……いえ。そうではありませんが」


 少し困ったように視線を逸らす。


「ルーク様は、人が良すぎるというか……」


「感謝もしていますし、とても頼りにもしています」


「ただ……少し心配になるのです」


「そっか」


 ルークは苦笑してから、わざと軽い調子で言った。


「こんな可愛い子に心配させちゃってるか」


「か、可愛いって……!」


 エリシアの頬がほんのり赤くなる。


「そんなこと……誰にでも言ってるんじゃないですか?」


「いや、誰にでもは言わないよ」


 少し照れくさそうに笑う。


 エリシアは小さく息を吐いてから、


「……本当に、不思議な方です」


 けれどその表情は、どこか柔らかかった。


 その夜。


 宿の部屋に戻ったルークは、ベッドに腰を下ろして息をついた。


「……さすがに今日は疲れたな」


 だが、頭の片隅にずっと引っかかっていることがあった。


(そういえば……昨日はガチャが使えないって分かっただけで、

 武器とか防具はちゃんと確認してなかったな)


 意識を集中させると、ログインボーナスの一覧が浮かび上がる。


「期間限定武器……期間限定防具……」


「よし、見てみるか」


 最初に開いたのは――クリスマス限定装備。


 赤と白の派手な衣装。


 そして、星の飾りが付いたクリスマス仕様の杖。


「……いや、使えないだろこれ」


「目立ちすぎるわ」


 次。


「おっと……アニメコラボの限定アイテムか」


 表示されたのは、もふもふした毛皮に包まれたナックル武器。


「……現実でこれ振り回すの、色々アウトだろ」


 補正値を見ると、やたら高い。


「性能だけは化け物級なんだけどな……」


 首を振って次へ。


「さてさて……」


 しばらく眺めてから、ルークは頷いた。


「うん、これでいいか」


 選んだのは、SRランクの片手剣。


 そして、同じくSRランクの弓。


「近接だけじゃ危ないって分かったしな」


 さらに防具の項目を開く。


「鎧も新調しておこう」


「今のままだと、低レベルの魔物相手でも普通に危険だし」


 軽く息を吐く。


「命大事に、ってやつだな」


 装備を確定させながら、静かに決意する。


「……よし」


「明日は、この世界に慣れるためにも」


「レベルアップを兼ねて、相談所の依頼を受けてみるか」

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