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第46話 洋館

昼過ぎ。


二人は富裕層地区へ足を踏み入れた。


空気が違う。


行き交う人々の服装、歩き方、声の抑揚。

庶民地区とはまるで別世界だった。


絹や上質な麻で仕立てられた服。

装飾の多い帽子や手袋。

従者のような者に荷物を持たせ、ゆったりと歩く姿。


「……別の街みたいね」


リーナが小さく言う。


「みんな見栄の張り合いに見える」


「こういうとこ嫌い」


「目が値踏みしてる」


確かに、通り過ぎる視線はどこか冷たい。


二人は商業地を離れ、整然とした住宅街へ入る。


石畳は傷ひとつなく、植え込みは均等に刈り込まれている。


そして――


問題の屋敷があった。


写真で見た通りの佇まい。


白壁の洋館。

大きな鉄製の門。

その脇に、普段使いの小さな門扉。


「……立派だね」


リーナが口笛を吹く。


「内覧に来た夫婦みたいじゃない?」


「…」

リーナがツンとした顔で

「無言はやめろ」


「……それはそれでいいか」


外から見れば、ただの見学客にしか見えない。


問題は――中だ。


ルークは預かった鍵を取り出した。


重い金属音。


門が軋みながら開く。


敷地内へ入る。


庭は整えられている。

雑草も伸び放題ではない。


「放置されてるわけじゃない」


「綺麗に整えられた庭……」


探偵気取りで言うルークに、


「いや!市長が言ってたじゃん、業者入れてるって」


すぐさまリーナが突っ込む。


そんなやり取りをしながら、玄関前へ。


大きな両開きの扉。


鍵を差し込む。


カチリ。


重い音とともに扉が開いた。


中へ足を踏み入れる。


豪華絢爛な内装が目に飛び込んできた。


赤い絨毯。

高い天井。

壁一面の装飾彫刻。

大きなシャンデリア。


家具も一流品だと一目でわかる。


「……わお」


リーナが呟く。


「誰もいないから静かだね〜ある意味不気味」


軋みも、埃の匂いも、湿気も感じない。


「空気は正常」


ルークが小さく言う。


「魔素溜まりなし」


「異常な気配もない」


「でも」


リーナが視線を巡らせる。


「居心地が悪い」


確かに。


圧迫感があるわけではない。

だが、どこか落ち着かない。


「なんか視線を感じるような……感じないような」


「何も感じないわよ」


「怖いこと言わないで」


床板はきしまず、管理状態は完璧だった。


「事故はどこで起きた?」


「書類だと二階の階段付近」


階段を見上げる。


磨き上げられた木製の階段。


「普通すぎる」


「なんでこんな何でもないとこで事故が」


「うん」


リーナが小声で。


「特に何もなし」


ルークは手すりに触れた。


冷たいだけで異常はない。


何も起きていない。


だが確かに、ここで何人もの人がおかしくなっている。


「まずは地下から行こう」


「そうね、下から確認しましょ」


地下は貯蔵室のようだった。


石の壁で囲まれ、しっかりした造り。


ルークは壁に手を当て、じっと見る。


「特に何も感じないし……何もない」


その時――


[ゴトン]


上の階から物音。


「キャッ!」


「なになに?」


二人は顔を見合わせ、急いで階段を駆け上がる。


部屋に入ると、銅製の花瓶が転がっていた。


「……なーんだ、花瓶か」


だが、すぐに違和感が走る。


重く、安定感のある花瓶。


なぜ今、このタイミングで落ちた?


背筋が一瞬凍る。


ゆっくり後退ろうとした瞬間――


ガチャン。


玄関の鍵が閉まる音。


「……うん?」


慌てて向かう。


やはり、鍵がかかっている。


開かない。


力ずくで壊すことはできる。


だが、壊せば調査は終わりだ。


「まずくない、これ」


リーナの声が震える。


「だ、大丈夫大丈夫」


「……ルーク、ちょっとぎこちなくない?」


「そんなことありませんよ、リーナさんこそ震えてません?」


「ちょっと寒いだけよ」


「今、春ですが?」


「うっさい、ばか、しね」


その瞬間――


遠くの部屋でガタンガタンと音が鳴り響いた。


「……行くしかないね」


「もー下がれないし行くとこまで行くしかないわ」


部屋に入ると、大きな絵画の額縁が揺れていた。


そして微かに――


「……ダスゲテ……グライョ……」


微かに女性の声のようなもの。


「どこにいるんだ?」


額縁の裏をよく見ると、ツギハギされた壁紙のズレ。


軽く叩くと、奥に空間がある音が返る。


額縁を外し、壁を押す。


動かない。


引き手もない。


だが――


この部屋にはもう一つ違和感があった


部屋の隅に金色の女性像があった。


人ほどの大きさ。


よく見ると、腕の一部だけ色が剥げている。


ルークは像と握手するように手を掴み、手首を捻った。


ギギ……。


像の手首が動く。


その瞬間――


隠し壁がゆっくりと開いた。


「えええ、隠し部屋!?」


リーナが叫ぶ。


暗い空間が奥へ続いている。


二人は何かに導かれるように、その中へ足を踏み入れた。

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