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第45話 白羽の矢

その日の午後。


ギルドのロビーで依頼を整理していたリーナの視線が、ふと止まった。


市庁舎の方角。


階段の上で、市長がこちらを見ている。


そして――


小さく手招きした。


「……ルークルーク、あれ見て」


「ん?」


「市長が呼んでるみたい」


「ほんとだね。行ってみようか」


二人はそのまま市庁舎へ向かった。


応接室へ通された。


市長はどこか疲れた顔をしていた。


「君たちに頼みたいことがあるんだが」


机の上に置かれた書類を差し出す。


「私の知人からの依頼というか……少し困ったことが起きていてね」


「富裕層地区の一等地にある住宅街で、不可解な事故が続いている」


ルークが資料に目を通す。


年季の入った屋敷。

立地は街でも最上級。

だが――住人が定着しない。


「入居しても、数日から数週間で問題が起きる」


「転落事故」


「原因不明の急死」


「突然正気を失った者もいる」


リーナが眉をひそめる。


「怖い家、気持ち悪くて誰も住みたがらないんじゃ?」


「そうなり始めている」


市長は首を振った。


「だが調査しても原因が出てこない」


「魔獣の痕跡もない」


「魔素溜まりもない」


「毒も見つからない」


「それでも被害は続いているのだ」


ルークが静かに言う。


「ただ確かに」


「この家で何かが起こっている」


市長はうなずいた。


「そうなのだ。理由がわからんから困っている」


「なぜ俺たちに?」


市長は少し苦笑した。


「君は今じゃ依頼の大小に関わらず取り組んでいると聞く」


「依頼完遂率は100%」


「それに――信用がある」


リーナが肩をすくめる。


「毎日働きまくってたもんね」


「ここらあたりじゃ、いい冒険者がいると話も上がってきている」


市長は続けた。


「騎士団を動かせるような事案でもないし、余計に騒ぎになる」


「だが放置もできない」


「だから静かに調べてほしい」


書類の最後に、セピア色の写真が挟まっていた。


白く美しい屋敷。


窓も壁も古さを感じさせない。


庭も丁寧に手入れされている。


「空き家とは思えないな」


「ああ。たまに庭の掃除だけは依頼している」


「景観が悪くなれば周りの住民から苦情が入るからな」


「なのに誰も住めない」


リーナが小声で呟く。


「一番嫌なやつ」


市長は深く息を吐いた。


「どうか真相を突き止めてほしい」


「……悪い噂が広がれば、この辺りの地価も下がる」


現実的な理由だった。


ルークは迷わず言った。


「わかりました。引き受けます」


「その代わり――」


言葉を切る。


一瞬の沈黙。


市長が続きを待つように視線を上げる。


だが、ルークはそれ以上を口にしなかった。


市長はわずかに眉を動かし、静かにうなずいた。


市庁舎を出る。


「富裕層地区の一等地で怪事件とか」


リーナが腕を組む。


「絶対ロクなもんじゃないわよ」


「原因不明」


「魔獣でも病気でもない」


ルークの目が静かに細まる。


「これは調べがいがある」


「いつも真実は一つ」


リーナが苦笑する。


「楽しそうに言うのやめなさい」


「きも」


夕方の風が吹く。


次なる舞台は、

美しく整えられた富裕層の住宅街。


だがその裏には――

誰も触れられない“何か”が潜んでいる。


信用が呼び寄せた、市長直々の依頼。


そして二人は、問題の屋敷へと向かった。

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