第44話 信用は剣より重い
それからの日々。
ルークはトリビエン周辺の依頼を片っ端から受けていた。
魔獣討伐。
荷馬車の護衛。
行方不明者の捜索。
井戸に住み着いた魔物の排除。
どれも大規模ではない。
だが、街には確実に必要な仕事だった。
そして――
「はいはい次の依頼ね」
ギルドの受付に立つリーナが、慣れた手つきで紙を差し出す。
「農村の畑荒らし。小型魔獣3匹程度」
「了解」
「また即終わりでしょ」
「たぶん」
「つまんな」
そう言いながら、休憩時間になると当然のようについてくる。
畑。
飛び出してきた獣型魔獣。
影が一瞬伸びる。
重力が落ちる。
ズン。
動きが止まったところへ、ルークはとどめを入れた。
農夫が目を丸くする。
「これで畑が荒らされずに済むよ……ありがとうよ」
深々と頭を下げられる。
リーナが腕を組む。
「ほら、また好感度上昇」
「数値見えてるのか?」
「感覚よ」
別の日。
馬車護衛の帰り。
商人が震えながら言った。
「騎士団より安心だった……」
「速いし静かだし壊さないし……」
噂は街に広がっていく。
✔ 速い
✔ 強い
✔ 被害を出さない
✔ しかも感じがいい
最強の広告だった。
夕方。
ギルド前の階段に並んで座る二人。
「ねえ」
リーナが言う。
「孤児院の話、進んでるみたいよ」
「市長が議会で名前出したって」
「“最近街に貢献してる冒険者”って」
ルークは少し驚く。
「もう?」
「そりゃ毎日あれだけ働いてりゃね」
「市民の声が一番効くのよ」
「政治って」
「数字より評判」
ルークは小さく笑った。
「剣より難しいな」
「でしょ」
少し沈黙。
リーナが空を見上げる。
「……毎日ついてきて迷惑?」
「何それ。そんなことないよ」
「受付の合間も休みの日も」
「一緒の方が楽しい」
「付き合ってくれてありがとうね」
一瞬固まる。
「……ばか」
「きも」
でも逃げない。
隣に残る。
街の人々はもう知っていた。
黒髪の青年と、受付嬢の少女。
問題を起こさず、街を少しずつ良くしていく二人の存在を。
信用は、静かに積み上がっていく。
剣より重く。
魔法より強く。
孤児院への道は、確実に近づいていた。




