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第41話 少女の覚悟

ルークは、はっと意識を取り戻した。


「……あれ?」


視界いっぱいに広がる夜明け前の空。

そして、膝の感触。柔らかい。


「気づいた?」


覗き込んでいたのはリーナの顔だった。


「どれくらい……?」


「10分くらいよ」


ルークは小さく息を吐く。

安堵と同時に、まだ終わっていないという表情になる。


「……そっか」


リーナが少し迷ってから口を開いた。


「そういえば、さっき倒れる前」


「“次は私”って言いかけてたけど……」


ルークの目が鋭くなる。


「そうだ」


「次はね、リーナの番だ」


「けりをつけにいこう」


二人は倉庫へ戻った。


そこには――

壮絶な戦いの跡が残っていた。


壁に飛び散った血痕。

砕けた瓦礫。

そして、意識を失った暗殺者たちが数十人。


その中央に、ムリソーが倒れている。


動かない。


「今なら起きない」


ルークが静かに言った。


「どうするかは、リーナに任せる」


リーナは震える手で仕込んでいたナイフを握る。


一歩。

また一歩。


首元へ刃を振り上げる。


――振り下ろそうとして。


止まった。


沈黙。


やがて、ナイフが震えながら下がる。


「……やっぱり無理」


「こいつは悪党でも」


「殺したら、前の私に戻ってしまう気がする」


ルークはしばらく見つめてから、静かに頷いた。


「……そっか」


「わかった」


「ギルドに任せよう」


ほどなくしてギルド職員たちが現れ、月夜のキャラバンを拘束していった。


警備隊が明日引き取りに来るという。

今夜は牢で留置となった。


ヤンが二人の前に立つ。


「リーナ、よくやった」


「これで次の歩みに進める」


「過去に囚われるな」


「今までお前が皆にしてきたことが、変わった証だ」


「強盗狩りなんてもう必要ない」


「ここまでやったんだ。国も動くだろう」


リーナの目に涙が浮かぶ。


「……うん」


「今日は休め」


「あとは任せろ」


「二人ともご苦労さん。また明日な」


そう言って別れた。


――数時間後。


夜明け前。

まだ空が暗い時間。


ヤンの妻が血相を変えて駆け込んできた。


「リーナ……!」


「ヤンが……ヤンが……!」


胸が嫌な音を立てた。


リーナはルークを叩き起こし、ギルドへ走る。


ルークの視界に飛び込んできたのは――

ヤンの腹に当てられた、血に染まったタオルだった。


床には血溜まり。

牢の扉は開いている。


中にいたはずの悪党たちは消えていた。


そして――

倒れているヤン。


「……追われて……ここに……」


声は掠れ、意識は混濁している。


まるで、リーナを匿ったあの夜に戻ったかのようだった。


「ヤン……!」


ルークは必死にポーションを飲ませる。

だが喉を通らない。口からこぼれ落ちるだけ。


そして――息が止まった。


ルークは荒い息を整えながら、意識を内側へ沈める。


闇が渦巻いていた魔力の中心。


そこへ別の色を呼び起こす。


——光。


属性変更――光属性。


身体の奥が淡く震えた。


次の瞬間、内側から柔らかな輝きが滲み出す。


刺すような闇とは違う。

包み込む熱。

温かさが血管を走り、指先まで満ちていく。


だが、それだけでは足りない。


ルークは腰元のポーチへ手を伸ばした。


刻まれた魔法陣の結晶。

強化ルーン。

解放ルーン。


次々と握り潰す。


光となって砕け、身体へ吸い込まれていく。


一つ。

二つ。

三つ。


魔力が跳ね上がる。

鼓動が強くなる。

限界が押し広げられる感覚。


頭の奥で何かが弾けた。


《属性魔法:最大解放》


さらに深い層が開く。


未知の領域へ踏み込む。


《新スキル獲得――天使の福音》


理解が一気に流れ込む。

力の流れも、代償も、使いどころも。


すべてが刻まれる。


ルークは迷わなかった。


ヤンへ手をかざす。


「戻ってきてくれ……!」


光が溢れ、夜を押し退ける。


さらに重ねる。


「エクストラヒール!」


二重の輝きがヤンを包み込んだ。


沈黙。


そして――


ヤンの白かった顔に、ゆっくり赤みが戻る。


胸が上下する。


呼吸。


生きている。


「……ん?」


まぶたが開く。


「俺……?」


次の瞬間、妻が泣き崩れるように抱きついた。


「ヤン……生きてる……!」


奇跡だった。


誰も理屈を考えなかった。


ただ、生きていた。


それだけだった。


リーナは涙をこぼしながら、その光景を見つめていた。


安堵と同時に、胸が締めつけられる。


(私の甘さが……)


(ヤンを殺しかけた)


ルークも拳を握り締める。


自分の判断の重さを噛み締める。


「……行こう」


低い声。


逃げた連中を追う。

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