第40話 闇に沈む罠
その場を離れ、目的に向かっていくと
投げナイフが飛んできた。
新手が現れた。
避ける。
すぐ距離を取られる。
別方向からまた飛ぶ。
追えば逃げる。
止まれば撃つ。
それを何度も繰り返された。
「……誘導されてる」
瓦礫の影。
壊れかけの倉庫群。
工事が止まり、何年も放置されたような場所。
空気が死んでいる。
ルークは物陰で足を止めた。
遠目に倉庫を見据える。
「罠だろうね」
リーナを見る。
一瞬、迷ってから口を開いた。
「一緒に戦うって言ったけどさ……」
「ここに身を潜めててくれないか」
「さっきのレベルのやつらが、まだいると思う」
リーナは唇を噛む。
理解している。
今は足手まといになる。
「……死ぬんじゃないわよ」
無理に作った笑顔。
「帰ってきなさい」
ルークは頷いた。
前を向いた瞬間、表情が消える。
戦闘の顔だった。
———
廃倉庫の前。
身を隠しながら中を覗く
中央に――子供が寝かされていた。
「……っ」
反射で駆け寄る。
抱き上げた瞬間。
闇夜で光る切先。
喉元。
腹。
連続の突き。
「わかってたよ」
「さっき似たよう話、聞いたばっかだからね」
無表情の子供。
何度も、何度も刺しにくる。
「……すまない」
一撃。
気絶。
そっと地面へ寝かせる。
顔を上げる。
「出てこい」
「子供になんてことさせるんだ」
返事は笑い声だった。
「残念!!」
「残念!!」
次の瞬間。
手榴弾が投げ込まれる。
複数。
子供のそばにも。
「……っ!!」
闇を纏う。
破片が弾かれる。
爆風が身体を叩く。
「まじか……」
「子供いても関係なしとか、狂ってるだろ」
怒りが込み上がる。
だが冷静さは失わない。
(殺す気で来てる)
(なら――容赦しない)
数名が固まった場所。
ブラックホール。
空間が歪み、身体が引き寄せられ、潰れる。
見向きもしない。
指を弾く。
重力圧縮玉。
一人。
二人。
吹き飛ぶ。
「これで終わりなわけないよな」
影が揺れる。
現れようとした瞬間。
「遅い」
背後。
影移動。
闇を纏った拳。
叩き込む。
吹き飛ぶ。
さらに影へ。
一人。
二人。
姿を捉えられない。
暗闇を高速で支配する死角。
何が起きているかすら分からない。
だが――
瓶が割れる。
炎が走る。
倉庫が燃え上がり、夜が昼のように明るくなる。
影が途切れる。
移動が鈍る。
その奥。
拍手。
パチ……パチ……パチ……
現れる男。
ムリソー。
「素晴らしい」
「よくもまあ、私の鍛え上げた部下たちをここまで」
ナイフを放り上げ、掴む。
また放り上げ、掴む。
遊ぶように。
次の瞬間。
消えた。
――近い。
衝撃。
腹。
血が落ちる。
暗器。
刺されていた。
気づくのが遅れるほどの速さ。
(なんだ……このスピード)
回し蹴り。
吹き飛ぶ。
瓦礫へ激突。
咄嗟に闇を纏う。
だが衝撃が重い。
「くそ……」
「まずポーションだ……」
ムリソーがゆっくり近づく。
「自分の力、見誤ったんじゃないか」
「格上を相手にしたことがないのか?」
「これで終わりじゃないよな」
「まあいい」
「次で終わりにするか」
一瞬、視線が影へ向く。
「リーナも相手にしないといけないからな」
(……すまない、リーナ)
(こいつはやるしかない)
奪うか。
奪われるか。
身体の闇防御を全開にする。
同時にハイポーションを流し込む。
裂けた傷が一瞬で塞がる。
「ここからだ……!」
闇魔法の大放出だ。
倉庫がないが少し冷たく空気が重たく感じる。
重力球をいくつも作る。
足元から闇の手が伸びる。
ムリソーがナイフを放り上げた瞬間、消える。
だがそこは闇の手の範囲。
違和感を察知し、高く跳ぶ。
そこへ――
待ち構えていた重力球が触れた。
――ドン!!
防具が裂け、金属が吹き飛ぶ。
ムリソーは空中で態勢を立て直す。
笑った。
「いいね……」
「少しは遊べそうだ」
ダメージは確実に入っている。
だが怯まない。
ナイフが心臓へ飛ぶ。
闇の纏が弾く。
「へええ」
「やるねー」
小さな赤い玉が次々投げられる。
落ちた瞬間、火柱。
灼熱。
焼ける。
(防げない……)
(でも今纏を解けば終わる)
――気づく。
(炎って……酸素だ)
ブラックホールを広げる。
空気が消える。
炎が揺れ、消える。
火炎瓶の炎も消失。
完全な闇。
「おもしれー」
「アサシンの俺に闇の中で戦いを挑むとはな」
「うわっ!」
悲鳴。
「う……うう……!」
苦しむ声。
「わかった……!」
「やめてくれ!」
「リーナは好きにしていいから!」
静かな声が闇の中で響いた。
「これで済むと思っているなら甘い」
闇が動く。
影が影を裁く。
一瞬。
すべての音が消えた。
――終わった。
沈黙。
重たい気配だけが残る。
リーナの背後。
何かが、立っている。
近すぎる気配。
「次は……リーナ……?」
振り向くのが怖い。
それでも、ゆっくりと首を回す。
そこにいたのは――
倒れ込むルークだった。
力尽きて崩れる。
リーナが駆け寄る。
抱き留める。
膝に頭を乗せる。
「ルーク……!」
しばらくして、瞼が震える。
「……リーナ?」
リーナは涙をこらえて微笑った。
いつもと違う、優しい声で。
「無茶しすぎよ……」




