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第38話 港の倉庫、闇へ繋がる糸

月夜のキャラバンは吐かなかった。


牢屋の鉄格子の向こうで、教官は意識を落としたまま。

残りの三人も同じだ。


「……口、割らねぇな」


監視役のヤンが低く言う。


「最初から覚悟して来てる」


ルークは肩をすくめた。


「じゃあ別ルートでだね」


リーナは唇を噛む。


「闇ギルドの居場所……どうやって掴む?」


ヤンが顎で示す。


「強盗団だ」


「最近、妙に稼ぎが戻ってきてる連中がいる」


「邪魔が消えたって噂だ」


リーナの眉が動く。


「……それ、闇ギルドに依頼した可能性がある」


「そういうことだ」


ヤンは視線を鋭くする。


「強盗団の溜まり場は港の倉庫」


「倉庫街の奥、灯りが消えねぇ一棟」


「俺は牢屋から離れられねぇ。行くのはお前らだ」


ルークが軽く手を挙げる。


「了解。留守番よろしく」


「ぶん殴るぞ」


「集中しろ!!!」


短いやり取り。


リーナは一度深く息を吸って、頷いた。


「……行こう」


「強盗団を一掃して、闇ギルドの糸口を掴む」


ルークが笑う。


「うん。ついでに、この街の夜をもう少し静かにしよう」


港は夜でも眠らない。


潮の匂い、油の匂い、濡れた木材の匂い。

積荷の影が月明かりを切り取り、倉庫街は影の迷路になる。


倉庫街の奥。


灯りの消えていない一棟があった。


笑い声が漏れている。

酒瓶の割れる音。

金属が擦れる音。


「ここだね」


ルークが小声で言う。


リーナは壁に背を預け、耳を澄ませた。


「人数……十以上」


「中に見張りが二人」


「奥に……頭目っぽい気配が一つ」


ルークが指を鳴らす。


「リーナ、いける?」


リーナは頷いた。


「私が先に中を削る」


「足を止める。殺さずに」


ルークが目を細めて笑う。


「わかった、慎重にね」


「じゃあ僕は、まとめて片付ける準備しとく」


裏口。


リーナが滑り込む。


足音がない。

呼吸が消える。

影の中に溶けるように動く。


見張りの男が背を向けた瞬間。


手首がしなる。


小さな暗器が飛ぶ。


男の足首に刺さった。


「――っ!?」


声が出る前に、リーナは距離を詰める。


隠し剣が膝裏へ走る。


深くはない。

だが腱の近くを正確に狙っている。


力が抜け、男の膝が崩れる。


「動かないで」


低い声。


柄で首筋を打つ。


沈黙。


次の見張り。


酒を飲んで笑っている。


リーナは柱の影を渡り、床の軋みを避ける。


暗器。


ふくらはぎへ。


「ぐあっ!」


振り向く男の顔面に煙玉。


白い煙。


視界が消えた瞬間、足首に隠し剣。


倒れる。


「っ、誰だ!」


中がざわつき始める。


だがその“ざわつき”は遅い。


リーナは先に動きを封じ続ける。


足。膝裏。足首。

「立てない」状態を増やす。


殺さない。


でも確実に、戦力を奪う。


正面。


中が騒ぎ始めたタイミングで、ルークが扉の前に立つ。


「……」 


扉を開けると、十数人の目が一斉に向いた。


「侵入者だ!」


「殺せ!」


鉄棒、短剣、斧。


荒い足音が迫る。


ルークは小さくため息をつく。


「おとなしくしてもうよ」


片手を上げる。


空気が、沈む。


世界が重くなる。


床がきしむ。


鉄骨が軋む。


「……なんだこれ」


重力が落ちた。


ドン。


見えない巨人が上から押し潰したように、強盗団が一斉に床へ叩きつけられる。


武器が散る。

叫びが潰れる。

立てない。動けない。


ルークは指を軽く握る。


圧が一段階増す。


「安心して」


「潰さないから」


骨が砕けない、絶妙な加減。


だが意識は飛ぶ。


一人、また一人と沈黙していく。


数秒。


倉庫は嘘のように静まり返った。


「……っ、てめぇ!」


奥から大柄の男が這うように起き上がる。


頭目だ。


歯を食いしばり、重力に抗っている。


「やっぱり見た目通りで頑丈だね」


ルークが近づく。


「質問に答えてこもうよ」


「闇ギルドに依頼したのは、君?」


頭目は唾を吐く。


「知るか……!」


ルークは少しだけ指を動かした。


圧が増す。


「ぐぁぁっ……!」


膝が床に叩きつけられる。


そこへリーナが現れる。


煙の向こうから、気配もなく。


隠し剣が喉元に当たる。


「動いたら刺す」


頭目の目が揺れる。


「……くそ……」


「最近、強盗がやりづらくなった」


絞り出す声。


「夜に邪魔が入る」


「仲間が消える」


「だから金積んで、闇ギルドに頼んだ!」


リーナの胸が小さく跳ねる。


「……私たちのせいで」


頭目が叫ぶ。


「邪魔者の排除!」


「依頼は通った!」


「最近また稼げるようになった!」


ルークの目が冷える。


「で、その報酬を今日払う予定だった?」


頭目が黙る。


ルークが顎で示す。


「あるでしょ」


リーナが倉庫奥の木箱を開ける。


ずしり。


金袋。


複数。


金貨の重い音。


「……かなりの額」


さらに机の上。


地図。


港から旧市街へ伸びる線。


赤い印がいくつもある。


「受け渡し場所……」


頭目が震えながら言う。


「今回の…」


「成功報酬だ」


ルークが地図を畳む。


「ありがとう」


「これで闇ギルドの動線が見える」


頭目が顔面蒼白になる。


「やめろ……闇を敵に回す気か……!」


ルークは笑った。


「もう回してる」


頭目を縛り上げる。


リーナが足首を軽く蹴り、立てないようにする。


「逃げないで」


「逃げない……」


ルークが周囲を見回す。


倉庫の中は、倒れた強盗団。


散った武器。


そして――


この場所自体が“巣”だった証拠。


「ここ、残す?」


リーナが小声で聞く。


ルークは首を振る。


「証拠は回収したし」


「残せば仲間が戻ってまた拠点にされても困るから」


指を鳴らす。


重力が一点に集まる。


梁が歪み、火薬箱が潰れる。


次の瞬間――


ドン!!


爆炎が夜を裂いた。


倉庫が燃え上がり、黒煙が天へ伸びる。


港が騒然とする。


警鐘。


叫び声。


走る足音。


リーナが呟く。


「警備隊が来る」


ルークが笑う。


「ちょうどいい」


「騒ぎを起こせば、表も動く」


「闇だけで終わらせない」


二人は頭目と証拠を抱え、影へ消える。


燃える倉庫の赤が、波に揺れた。


そして地図の印――

そこには、闇ギルドへ繋がる“道”が確かに描かれていた。

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