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第36話 覚悟の切先

 それから五年。


 リーナはギルドで働き続けた。


 掃除、受付、怪我人の看病。


 裏の技術は封じた。


 人を殺すことは一度もない。


 一度も。


 十五歳で救われたリーナは、


 二十歳を越える頃には


 ギルドに欠かせない存在になっていた。


 笑うことも覚えた。


 怒ることも。


 照れることも。


 少しだけ、甘えることも。


(私は生き直している)


(守る側で)五年。


 リーナは一度も人を殺していない。


 血の匂いから遠ざかり、

 守る側として生き続けた。


 ギルドの受付として。


 時に怪我人を看病し、

 時に子どもをあやし、

 時に冒険者を叱り飛ばし。


 穏やかな日々だった。


 少なくとも、表面上は。


 だが――


 ここ一年ほどで空気が変わった。


 夜の被害が増え始めた。


 強盗。


 通り魔。


 金目当ての襲撃。


 ギルドに届く前に揉み消される小さな事件。


 記録にすら残らない暴力。


(この匂い……)


 懐かしくて、嫌な匂いだった。


 統制。


 役割分担。


 裏の人間の動き。


 偶発ではない。


 誰かがまとめている。


 リーナは迷った。


 裏に戻らないと決めたはずだった。


 だが、目の前で奪われる命を見過ごせなかった。


(守る側に立つって、決めたんだから)


 夜。


 覆面をつける。


 刃を持つ。


 だが――


 もう“殺すため”ではない。


 “止めるため”。


 最初は威嚇。


 次は急所を外した制圧。


 致命傷は与えない。


 気絶させ、縛り、警備隊に投げる。


 それだけ。


 それだけを続けた。


 人は殺していない。


 一度も。


 あの日、赤子を抱いてから。


 一度も。


 だが裏の世界は甘くない。


 夜に現れる存在がいると噂になり始める。


「最近、仲間がやられてる」


「仮面をつけた黒装束だそうだ」


「速い」


「気配が消える」


 それはやがて古巣の耳にも入る。


 そして――


 その一年後。


 ルークがこの街に現れる。


 闇属性を使う、どこか抜けた男。


 強いくせに、どこか無防備で。


 きれいな身なりをしているのに、裏を知らない顔。


(危ない)


(この街の夜は甘くない)


(あんな格好じゃ狙われる)


 それが、最初に優しくした理由だった。

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