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第33話 戻るか、消えるか

港の外れ。


 波音すら届かない倉庫街の最奥で、盗賊組織の頭目は苛立ちを隠さず立っていた。


「……約束の相手は来るんだろうな」


 闇の中。


 足音はない。


 だが気配だけが増えていく。


 次の瞬間、倉庫の梁の上、床の影、背後。


 いつの間にか黒装束の集団が立っていた。


 頭目の喉が鳴る。


 中央から一人の男が進み出る。


 仮面をつけた男。


 声は冷たく感情がない。


「用件を言え」


「最近、夜になると俺らの仲間の奴らがやられてる」


「お前らの仕業だろ?」


 仮面の男は即答した。


「検討はずれだな」


「そんな依頼を受けてもいないし、人助けをする義理もない」


 頭目は舌打ちする。


「だが、お前達に似たような格好のやつがいた」


「知らないっていうなら――裏切り者が独断で動いてるんじゃないのか?」


 一瞬で空気が凍った。


「裏切り者だと?」


 仮面の男の姿が消える。


 次の瞬間、頭目の首元に冷たい切先が当てられていた。


「言葉は慎重に選んだ方がいい」


 殺気が倉庫を満たす。


「……悪かった」


 刃が離れる。


 仮面の男はわずかに沈黙した。


 何かに心当たりがあるような、短い間。


 その夜。


 港の灯りを見下ろす屋根の上に、リーナは立っていた。


 潮風が髪を揺らす。


(……嫌な気配)


 背筋が凍る。


 次の瞬間、音もなく影が増えた。


 前。


 後ろ。


 左右。


 屋根の縁。


 黒装束の集団が囲んでいる。


 逃げ道はなかった。


「……追ってきたのね」


 中央に仮面の男が進み出る。


「久しいな」


「ここで何をしている、リーナ」


「もう関係ない」


「私は抜けた」


「抜けた?」


 仮面の男は低く笑う。


「受付嬢に成り下がった時は見捨ててやった」


「だが夜に裏稼業に手を出したのは話が違う」


 間を置き、囁くように言う。


「……まだ殺したいと疼くのか?」


「だったら活躍の場を用意してやろうか?」


 リーナの拳が震える。


「私はもう殺さない」


「守ってるだけ」


「何を、戯言を」


「気に食わんな」


 一歩、距離を詰める。


「こちら側に戻るなら、今回のお前のお遊びはなかったことにしてやろう」


「拒めばどうなるか……わかっているな」


 潮の音だけが響く。


 そして低く告げる。


「それとも先に、あの男を消すか?」


 リーナの目が見開かれる。


「お前の周りをうろつく若いのだ」


「いつでも消せる」


「戻れば守ってやる」


「拒めば、あの男から始まる」


 逃げ場のない選択。


 それ以降、リーナは夜の活動をやめた。


 やめざるを得なかった。


 動けば、また現れる。


 答えを出していない以上、必ず追ってくる。


(今は……何もできない)


 淡い期待が胸をよぎる。


(このまま無かったことにならないかな……)


 すぐに否定する。


(そんなわけない)


 それでも(すが)るしかなかった。


 ほんのわずかな、甘い期待に。

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