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第28話 赤角ウサギと、夜に走る影

街外れ、森と畑の境。


 草むらに身を潜めながら、僕はじっと様子をうかがっていた。


 風が吹くたび、葉が擦れる音がする。


 ぴょん。


 白い影が跳ねた。


「……ウサギ?」


 普通の野ウサギだ。


 だが次の瞬間、森の奥から赤い影が飛び出し、そのウサギを角でひと突きにした。


 血が飛ぶ。


「うわ……」


 赤く染まった鋭い角。

 獣のような目。


「……あれが赤角ウサギか」


 すると周囲の草が次々と揺れた。


 ぴょん、ぴょん、ぴょん。


「一匹、二匹……十匹以上いる」


 しかも異様に速い。


 畑へ向かって一直線だ。


「このままだと全部やられる……まず足止めだ」


 息を整える。


「ダークブラインド」


 空気が沈み、黒い揺らぎが広がった。


 赤角ウサギたちが突然跳ね回り、互いにぶつかり合う。


「効いてる……!」


 視界を奪った。


「消滅はだめだ。証拠を残さないと」


 闇を圧縮し、重さを与える。


 次の瞬間――


 見えない圧力が一斉に落ちた。


 骨の砕ける音。


 赤角ウサギたちが地面に叩きつけられ、動かなくなる。


「……一瞬か」


 だが森の奥がきらりと光った。


 無数の目。


「まだいるな……まとめていく」


 再び闇を広げる。


 重力が森の縁を押し潰し、地面が沈む。


 やがて静寂が戻った。


「……これで終わりだろ」


「きゃっ!」


 背後で悲鳴が上がった。


「!?」


 振り返ると、リーナが尻もちをついていた。


「リーナ!?なんでここに!」


「様子見よ!受付嬢だからね!」


 震える声で睨む。

 「普通受付嬢は来ないだろ」


 「それより!!」


「……あんた、魔族だったんだね」


「違いますから!」


「だって今の……暗いオーラが出てた!」


「多分それ闇属性なだけです!」「魔法です」


「そんなの人族が使えるわけないでしょ!」


 胸がひやっとする。


 少し視線を逸らして、僕は言った。


「……そうです、それで……村を追い出されたんです」


「闇魔法を使えたせいで」


「……そんな」


 リーナの表情が曇る。


「ひどいじゃない」


「だから一人で旅してたの?」


「……うん」


 彼女は拳を握った。


「許せない……」


 すごい単純でいい子だな。ルークが思う


 そして少し間を置いて、


「でもさ」


「正直びっくりしたんだけど……すごかったよ」


「怖かったけど」


 胸が少し軽くなった。


 死体を数える。


「二十……三十……三十一羽」


「多すぎでしょ……」


「減らせって依頼だったし」


「まあ……そうだけど」


 畑いっぱいに広がる魔物の山。


「これ運べないわよ?」


「収納します」


「え?」


 次の瞬間、死体が次々と消えた。


「きゃああ!」


「ちょっと消えたんだけど!?」


「収納しました!」


「闇魔法に加えてそれもありえないから!」


「そんな魔法聞いたこともない」


 ギルドへ戻ると一気に騒然となった。


「三十一羽!?」


「一人でだと!?」


 僕は倉庫前で職員を呼び、


「ここにあります」


 そう言って一気に死体を並べる


 誰にも見えないよう、物陰で。


 職員が目を丸くする。


「角の質がいい!」


「肉も高級品だぞ!」


「全部買い取りだ!」


 金貨が積み上がる。


「……こんなにもらえるの?」


「素材価値が高いんです」


 ざわめきの中、


「ほら見なさい」


 リーナが受付の内側で腕を組んだ。


 なぜかドヤ顔。


「この人がやってくれるって思ってたわ」


「三十一羽くらい、やるって」


「え、いや……」


「なに驚いてるのよ」


「私の目は節穴じゃないの」


 周囲がざわつく。


「受付のリーナがそこまで言うなら……」


「相当だな……」


 リーナは胸を張る。


「ちゃんと見る目あるのよ、私は」


 そして小さく視線を逸らす。


「……まあ、期待通りだったけど」


 耳がほんのり赤い。


 その夜。


 宿へ戻る途中、水路沿いで影が走った。


 屋根の上を音もなく跳ぶ黒い影。


 街灯に照らされ、一瞬だけ見えた覆面と短剣。


 次の瞬間、消える。


「……なんだ今の」


 胸に違和感が残る。


(この街、何かいる)


 翌日から依頼を重ねた。


 リーナは受付。


 空いた時間だけ様子を見に来る。


「怪我してない?」


「大丈夫」


「……ならいい」


 素直じゃないが優しい。


 報酬で軽食を食べたり、港を歩いたり。


 距離は自然に縮んでいった。


 ある日。


 ギルドで依頼書を見ていると、


「ねえ」


 リーナが受付の内側で腕を組みながら言う。


「明日、暇でしょ」


「え?」


「暇よね?」


「決めつけないでほしいんだけど」


「うるさい」


 頬が少し赤い。


「ついてきなさいよ」


「どこへ?」


「街の外よ!」


「デート・・・じゃないから!」


(今デートって言いかけたよね?)


 とは言えない。


「……わかった」


「よろしい」


 鼻を鳴らすが、耳は赤い。

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