第25話 広がる世界と、新しいセンス
王都を離れ、街道に出てしばらく歩いたところで、僕は足を止めた。
「……はぁ」
静けさに包まれると、頭の中にエリシアの顔が浮かぶ。
そして、自分の声。
『この世界は広い』
『まだ見ていない場所がたくさんある』
「……なんであんなこと言っちゃったんだよ」
額を押さえる。
「絶対あれ、残れたよね」
彼女の気持ちを確かめもしないで、勝手に悟った気になって。
「ああ……僕の馬鹿」
胸の奥がぎゅっと痛む。
「完全に意気地なしじゃん……」
本当は怖かっただけだ。
誰かのそばにいる覚悟を持つことが。
この世界で本当に生きることが。
だからそれっぽい言葉で、自分から距離を作った。
この世界にいきなり放り込まれて、いきなりエリシアと出会って、いきなり大事件に巻き込まれて。
気づけば僕は、やたら落ち着いた真面目キャラを演じていた。
「……絶対、背伸びしてたよな僕」
本当の自分はもっと単純で、臆病で、オタク気質で。
前世女性ともまともに話したこともない。できなかった。
なのに必死に“大人の男”をやっていた。
理由は一つ。
「エリシアが……めちゃくちゃタイプだったんだよなぁ」
思い出すだけで顔が熱くなる。
強くて、優しくて、綺麗で。
そりゃ格好つける。
「別れ、ほんと惜しかった……」
本気で残ろうかと思った。
でも結局、自分から逃げた。
彼女の気持ちも聞かずに。
「今からでも間に合うかな、戻ろかな」・・・
情けなくなった。そんなことできるわけない。
一回決めたことだ。行くしかない。
気持ちを切り替えて
僕は腰の袋から、王都で手に入れた地図を取り出した。
立派な世界地図――というほどのものではない。
描かれているのは王都を中心とした周辺地域と街道、そして隣国まで。
だがその外側は、線が滲み、霧に包まれたようにぼやけている。
「……この世界、どこまで広いんだ」
転生前に遊んでいたゲームのように、世界は拡張されていくのだろうか。
それとも、ただ描かれていないだけなのか。
どちらにせよ、進むしかない。
そして、はっきり描かれている国に視線が向く。
水の国トリビエン。
「……海鮮、食べたいな」
思わず呟いて苦笑する。
よし、まずはそこだ。
歩きながら、自分の状態を意識する。
「今は剣士のセンスだったよな」
最初に持っていた適性。
近接戦闘向きで安定して強い。
悪くはない。
けれど――
「やっぱファンタジーなら魔法だよな」
胸が高鳴る。
僕はセンス変更のルーンを取り出し、迷いなく砕いた。
光が弾け、身体を包み込む。
【センス変更:剣士 → 魔法使いⅠ】
身体が軽くなる。
同時に力が抜けた感覚。
「……わかりやすいな」
戦士の身体から術者の身体へ。
はっきりと変わった。
ステータスを確認すると、基礎体力系は大幅に低下。
代わりに魔力関連が跳ね上がる。
そして――
Lv.268。
「この数値があるなら何とかなるか」
だが次の瞬間、装備が次々と外れた。
「え、装備できない?」
適性制限。
どうやら魔法使いには重装備は無理らしい。
僕は転生前に溜めていたログインボーナスの中から、今の自分に必要な装備を選ぶ。
現れたのは、
深藍のローブ。
とんがり帽子。
魔導杖。
身にまとうと自然と姿が整う。
表示が浮かぶ。
【装備ランク:SR】
【魔法耐性:上昇】
【物理耐性:低下】
「うん、想定通り」
杖を振ると魔力が滑らかに流れた。
「……悪くない」
むしろ、かなりいい。
僕はローブの裾を整え、街道の先を見据える。
目指すは水の国トリビエン。
描かれている世界の、その向こうへ。
エリシアを忘れる旅が始まったーー
ではなく
この世界がどこまで続いているのか――
それを確かめる旅が、本当に始まった。




