第十八話 影の税と沈む街
ボルペンの街は、大きかった。
王都ゲイリックに次ぐ商業都市として知られ、街道には商人の馬車がひっきりなしに行き交っている。露店も並び、人の流れも多い。
――だが。
どこか、空気が重い。
活気はあるはずなのに、笑顔が少ない。
話し声は小さく、視線はすぐ逸らされる。
道端には腰を落とす者が増え、物乞いの姿も目についた。
「……街は動いていますね」
エリシアが周囲を見回す。
「でも、余裕がないように見えます」
確かに店はそこそこ繁盛しているようだ。
だが、会話の内容といえば暗い話ばかりが耳に入る。
「また徴税代行商会が来るらしいぞ」
「この前払ったばかりだろ……」
「もう限界だ……」
ルークの眉が寄る。
「徴税代行商会?」
エリシアも違和感を覚えていた。
「本来、税は領主が管理します」
「商会に委ねるなど……異例です」
不穏な気配が街に広がっていた。
通りへ出た瞬間だった。
軽い衝撃。
衣擦れ。
ルークは即座に振り返り、腕を掴む。
「……待って」
若い男だった。
だが抵抗はしなかった。
その場で崩れ落ち、額を地面に擦り付ける。
「お願いします……!」
「殴らないでください……!」
「少しでいいんです……」
「家に腹を空かせたガキがいるんです……!」
声は必死だった。
怒りよりも、胸を締めつけるものが込み上げる。
「……この街で、何が起きてる」
男は震えながら語った。
「ここ一年で……全部変わったんです」
「徴税代行商会が来てから……」
「払っても払っても追加徴税」
「足りなければ没収」
「払えなきゃ……俺みたいになるだけです」
かつては自分も商売をしていた。
だが取り立てが続き、店を失った。
「領主様は悪い人じゃない……」
「でも逆らえないんです……」
ルークは黙って財布を開いた。
「……これで、しばらくは保ちますか?」
「子どもさんに、食べさせられるものを」
十ゼニーを差し出す。
男は涙を流して何度も頭を下げた。
夜。
二人は領主館周辺を探った。
そこには荷車に積まれる無数の木箱。
異様なほど重い警備。
一台につき六人。
冒険者ではなく、訓練された兵だ。
やがて現れたのは領主本人。
やせ細り、覇気のない姿。
彼は荷車の管理者に何度も頭を下げていた。
「……立場が逆ですね」
さらに不可解だった。
馬車には国の紋章がない。
正規ではない輸送。
後を追うと、街外れの洋館へ。
ルークは影に紛れて聞き耳を立てる。
「俺たちは運ぶだけで金が入る」
「領主もペコペコだ」
「上に悪く報告すりゃ税が跳ね上がるからな」
笑い声。
「前回俺たちがくすねた分、結果領主に追加課税になったらしいぜ」
「まあ国に納める金じゃねぇし、細かく見てねぇだろ」
「おい、それ以上は誰かに聞かれるぞ」
荷に布が掛けられ、男たちは館へ入って行った。
戻ったルークは歯を噛みしめる。
「搾取と、横領がこの街を苦しめているみたいだ」
「そしてここの領主は……聞き入れるしかできない」
エリシアは静かに頷く。
「背後に、もっと大きな力があります」
「確実に」
二人は視線を合わせた。
「……やろう」
その夜。
一瞬窓から火花が見え
洋館は静まり返り、荷馬車は消えた。
金も帳簿も証拠も――すべて奪い返された。
領主館の門前に置かれた荷馬車と一枚の紙。
――『民衆のために』
だが問題は終わっていない。
これは一度の徴収を止めただけに過ぎない。
根は、もっと深い。
ルークが静かに言う。
「これで終わりじゃない」
「急がなければこの街、領主に危険が及ぶ」
エリシアも頷く。
「この街を苦しめている“元”を断たなければなりませんね」
二人は感じ始めていた。
この街も、
ペンシルも、
どこかで同じ敵につながっていることを。
そしてその先に――
ミゲルという存在があるかもしれないことを。
二人は歩き出す。
闇の根を断つために。




