第十七話 神隠しの町ペンシル
そして現在。
数日前。
密輸路の一つが途絶えた。
三日前。
奴隷輸送の護衛が戻らなかった。
昨日。
情報屋からの定期報告が届かない。
偶然か。
事故か。
盗賊か。
だが――
「……妙ですね」
ミクは書簡を閉じた。
供給が止まる地点が偏っている。
特定の街道。
特定の経路。
(偶発的ではない)
(だが、狙われている証拠もない)
胸の奥がわずかに冷える。
この組織は、損耗率まで計算して動かしている。
予定外の空白。
想定外の沈黙。
それが続く。
(放置はできない)
ミクは静かに命じた。
「該当経路の再調査を」
「目立たぬ形で」
闇の歯車は、わずかに狂い始めていた。
一方その頃。
ルークとエリシアは、小さな町――ペンシルへと辿り着いていた。
石畳の通り。
穏やかな家並み。
だが、人々の表情は暗い。
笑顔がない。
「……静かすぎますね」
「何か起きてる」
宿で話を聞いてすぐに分かった。
「若い娘ばかりが消えてるんです」
「昼も夜も関係なく……」
「神隠しみたいに……」
ルークは首を横に振った。
「違う」
「連れ去りだ」
その夜、二人は町を巡る。
裏路地。
森へ続く小道。
やがて見つけた。
足跡。
引きずられた痕。
破れたスカーフ。
「こっちだ」
森の奥へ進むと、古い狩小屋があった。
灯りが漏れている。
中からくぐもった声。
「静かにしろ」
「騒ぐな」
ルークは剣を抜く。
エリシアは息を整える。
「……行きます」
扉を蹴破った。
「なっ――!」
中には、剣や斧を持ったごろつきが五人。
縛られた少女たちが怯えている。
「放せ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、戦闘が始まった。
ルークが踏み込む。
剣閃。
一人目が吹き飛ぶ。
二人目の刃を受け流し、腹へ一撃。
骨の軋む音。
エリシアが滑るように動く。
華麗で無駄のない剣筋。
男の喉元で止まる刃。
「動かないで」
低く、凛とした声。
恐怖で男が崩れ落ちる。
残った二人は逃げようとした。
だが――
ルークの真空斬りが走る。
空気が裂け、地面が抉れ、
二人まとめて吹き飛んだ。
静寂。
少女たちの震える息だけが残る。
「……終わった」
縄を解き、外へ連れ出す。
「ありがとう……」
「助けてくれて……」
涙と感謝が溢れる。
町へ戻ると人々が集まってきた。
事情を聞き、怒りと安堵が広がる。
「もう神隠しじゃない」
「悪党だったんだ」
翌朝。
町には、久しぶりの笑顔が戻っていた。
女将が深く頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
エリシアは微笑む。
「当たり前のことをしただけです」
そのとき、群衆の中の一人が、
彼女の顔をじっと見つめた。
「エリ……」
名が喉まで出かかった。
だが、言葉はそこで止まる。
今この町に平和を取り戻したのは、
目の前の彼女なのだ。
過去よりも、今が大切だと――
その町人は、静かに理解していた。
ルークとエリシアは町を出る。
道すがら、ルークが言う。
「なんだかんだで救えたみたいでよかったね」
「はい」
並んで歩く。
風が吹く。
知らぬ間に、
世界の闇を削り取りながら。




