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第十二話 弱肉強食

背後に、かすかな足音。


 ルークは歩調を緩めず、角を一つ曲がった瞬間に振り返り、剣に手を掛けた。


「――誰だ!」


 飛び出してきた影は、小さかった。


 ぼろぼろの服を着た少女。

 十歳くらいだろうか。


 二人は顔を見合わせ、ほっと息をつく。


「……どうして後をつけてきたの?」


 エリシアが優しく尋ねる。


 少女は涙を浮かべて叫んだ。


「お母さんを……助けてください……!」


 今は追われる身だ。関われば危険しかない。


 ルークが口を開く。


「ごめん、今は急いで町を離れないと――」


「ルーク」


 エリシアが遮った。


「お母さん、どうしたの?」


 少女は嗚咽混じりに話し出す。


「悪い人たちに捕まって……」


「怖いことされてるかもしれない……!」


 エリシアの手が震える。


「目の前で苦しんでいる子がいるのに……」


「見捨てるなんてできません」


 逃げない人の目だった。


 ルークは歯を噛みしめる。


「……分かった。僕が行く」


「エリシアは森で隠れてて」


「夕刻まで戻らなかったら先に進んで」


「嫌です!」


「危険すぎる」


 強く言い切る。


 エリシアは唇を噛みしめ、頷いた。


「……必ず戻ってください」


「約束だ」


 町外れの古い倉庫。


 中には剣や斧を持った、町のごろつきのような男たちが六人。


 酒と悪意の匂いが漂っていた。


「連れてきたよ!」


「だからお母さん返して!」


 男の一人が少女に詰め寄る。


「おい、女はどこだ」


「し、知らない……この人連れてくればいいって……」


 ルークは理解した。


 母親は確かに囚われている。


 だがこの少女もまた、必死に利用されていた。


(ふざけるな……)


(子どもを餌にするなんて……)


「放せ」


 男たちが振り向く。


「英雄気取りか?」


「一人で来るとはいい度胸だ」


 ルークは剣を握り直す。


 視界にスキルが浮かび上がった。


【剣士の誇り Lv1】

 ――バフ効果:一分間、攻撃力と補正が3%上昇。


【剣士の威圧 Lv1】

 ――デバフ効果:複数対象可。

 ――一秒間、戦意を削ぐ。

 ――その間に攻撃を与えた場合、五秒間、俊敏性と防御力が2%低下。


 体の芯が熱を帯びる。


 一瞬、空気が歪んだ。


 男たちの顔から血の気が引く。


 その隙を逃さない。


 ルークは一気に踏み込んだ。


 柄で鳩尾を強打。


 振り向きざまに腕を砕く。


 斬り、打ち、蹴りを連ねる。


 デバフが効いている間に、確実に削っていく。


 ――あっという間に、ごろつき五人が地に伏せていた。


「こいつ……!」


「ただ者じゃねぇ!」


 最後に残った頭目が片手斧を投げつける。


 弾き返し、間合いを取る。


(バフ残り十秒……)


 踏み込み。


 下段払い。


 膝蹴り。


 顎を砕き、頭目は崩れ落ちた。


 残党を縛り上げる。


「お母さん……!」


 倉庫の奥、大きな木箱からうめき声。


 中には猿ぐつわをされた女性。


 拘束を解く。


 親子は泣きながら抱き合った。


「ありがとうございます……命の恩人です」


「どうして、こんなことに?」


 女性は震えながら話した。


「今日食べるものに困っていて……」


「いい日銭になる仕事があるって言われて……」


 ついていった結果が、これだった。


 ルークは唇を噛みしめる。


(この世界にも……確実に貧困がある)


(街が大きくなれば、闇も増える)


「ちょっと待ってて」


 倉庫へ戻り、金と宝石を集める。


 親子へ差し出した。


「え……こ、こんなに……?」


「いいんですか?」


「これで人生やり直す助けになるなら」


「元々、今日の日銭みたいなものだよ」


 親子の目に涙が溢れる。


「ありがとうございます……本当に……」


「あと」


 ルークは振り返る。


「ごろつきは縛ってある」


「街の警備団に突き出すといい」


「もう狙われにくくなるはずだ」


 深く頭を下げる二人を背に、ルークは歩き出した。


「さようなら」


 林へ戻ると、エリシアが駆け寄った。


「無事で……よかった……!」


「ちゃんと助けられたよ」


 エリシアの目が潤む。


「あなたは……本当に優しい人ですね」


「優しいっていうか」


「エリシアが先に動いたからだよ」


「放っておけなかっただけ」


 夕暮れの風が二人を包んだ。


 追われる旅の中でも――

 ルークは、人を救うことを選び続ける。

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