第114話 鉄の国の値段
鉄の国。
炉の熱気が空気を歪めている。
赤い。
熱い。
重い。
打撃音が響く。
ガン。
ガン。
ガン。
絶え間ない。
「……すご」
リーナが小さく呟く。
街全体が工房だった。
煙。
火花。
鉄の匂い。
そして――
視線。
入ってきた三人へ、無遠慮な視線が刺さる。
「人間か」
「細いな」
「誰かの遣いか?」
「いや一見じゃねえか?」
「だれも相手なんかしないぜ」
低い声。
遠慮がない。
ルークは肩をすくめる。
「歓迎はされてないな」
「当然やろ」
ミカサは即答だった。
視線を一切気にしない。
「ここは“力で信用を作る国”や」
「取引もしたこともない、
どこぞのもんかもわからんやつにはそんなもやで」
歩く。
真っ直ぐ。
迷いなし。
大きな建物の前で止まる。
鉄でできた扉。
叩く。
ゴン。
中から低い声。
「誰や」
「客や」
即答。
間。
扉が開く。
現れたのは、分厚い腕のドワーフ。
髭。
焼けた肌。
鋭い目。
「帰れ」
即答。
ミカサは一歩も引かない。
「話聞いてからにせえや」
「時間の無駄や」
扉が閉まりかける。
その瞬間。
ミカサの手が止める。
ギィ――
鉄が軋む。
ドワーフの眉が動く。
「ほう」
「無駄かどうかは、こっちが決める」
目が合う。
沈黙。
数秒。
先に折れたのはドワーフだった。
「……入れ」
室内。
熱気がさらに濃い。
巨大な炉。
溶けた鉄。
職人たちが無言で作業している。
中央。
一段高い席に座るドワーフ。
明らかに格上。
「用件」
短い。
ミカサも短い。
「武器の取引や」
空気が止まる。
数人の手が止まる。
「……人間が?」
笑いが漏れる。
「金持っとるんか?」
「見る目あんのか?」
「安物買いに来たんやろ」
ざわつく。
だがミカサは一切揺れない。
「試作品、見せてみ」
静かに言う。
場が一瞬で冷える。
「……ほう?」
中央のドワーフが目を細める。
「選ぶ立場やと思っとるんか」
「思っとるで」
即答。
リーナが横で小さく息を呑む。
ルークは笑いをこらえる。
(始まったな)
ドワーフが立ち上がる。
重い足音。
ガン。
ガン。
「ええ度胸や」
「せやろ」
距離、1歩。
「ほな聞くで」
「なんでワシらが、お前らに売らなあかん」
圧。
普通ならここで折れてしまいそうなほどの圧。
だが。
「売らんでええで」
ミカサはあっけらかんとあっさり言う。
空気が止まる。
「ただ――後悔するだけや」
一瞬。
完全な沈黙。
ドワーフの目が変わる。
「ほう……言うやないか」
「理由は?」
ミカサが顎でルークを指す。
「撃ってみ」
「は?」
ドワーフが眉をひそめる。
ルークは一歩前へ出る。
「壊していいの?」
「壁でええ」
ルークが手を上げる。
空気が歪む。
圧縮。
収束。
――真空玉。
静か。
次の瞬間。
ズンッ!!
壁が抉れる。
音が遅れてくる。
爆ぜたような破壊。
粉塵。
沈黙。
全員の視線が一点に集まる。
「……今の」
誰かが呟く。
ルークはもう一度構える。
「もう一発いく?」
「待て」
中央のドワーフが止める。
目が完全に変わっていた。
職人の目。
「何の塊飛ばしてん、弾か?」
「まあね」
「これを飛ばす武器がいる」
断言。
ミカサが笑う。
「そういうことや」
ドワーフがゆっくり頷く。
「だがな」
「条件はこっちが決める」
来た。
ミカサの目が細くなる。
「ええで」
「その代わり――」
一歩踏み込む。
「ウチが“売る側”にもなる」
「……は?」
「素材と流通、握っとる」
「武器はあんたら」
「売るのはウチら」
空気が張り詰める。
ドワーフの眉が上がる。
「舐めとるんか」
「舐めとるのはそっちや」
即返し。
「作るだけで満足しとる」
「外の価値、知らんやろ」
沈黙。
図星。
数人の職人が顔をしかめる。
「……続けろ」
低い声。
完全にスイッチが入った。
ミカサは止まらない。
「このままやと“ええ武器”止まりや」
「ウチらが入れば“売れる武器”になる」
「値段が変わる」
「規模が変わる」
「世界が変わるんや」
一拍。
「どないするん?」
沈黙。
長い。
熱だけが動いている。
そして。
ドワーフが笑った。
「……おもろい」
決着の音だった。
外。
熱気が少しだけ軽くなる。
「……勝った?」
リーナが聞く。
ミカサは肩を回す。
「半分な」
ルークが笑う。
「まだ条件詰めるやつだろ」
「ここからが本番や」
ニヤリ。
戦闘より疲れる戦い。
だが確実に――
掴みかけていた。
“武器”と“金”と“未来”を。




