第十一話
追われる者たち
森を抜け、二人は最初に見えた小さな町へ立ち寄った。
最低限の食料だけを買い込み、ほとんど休まず再び街道へ戻る。
「ここに長居するのは危険だね」
「はい……騎士団が来ているかもしれません」
次の目的地――ブランの町までは半日ほど。
このまま進めば日が変わる前には辿り着けそうだった。
だが街道をそのまま進むのは危険すぎる。
ルークは少し考え、道を外れた。
「今日はここで野営しよう」
街道から少し離れた林の中。
だが木々の隙間から旅人の行き交う姿は見える。
追っ手が来ればすぐ分かる場所だった。
焚き火に火が入り、ようやく二人は腰を下ろす。
張り詰めていた緊張が、ふっと抜けた。
「……生きてますね」
エリシアが小さく笑う。
「ほんとだよ」
ルークも苦笑した。
「さっきまで死ぬかと思った」
二人は顔を見合わせ、思わず笑い出す。
森の静けさの中に、久しぶりの安堵が広がった。
ふとルークはステータスを開く。
「そういえば……」
浮かび上がる数値。
レベル:25
「……え?」
思わず二度見する。
「もう二十五!?」
今日だけでも魔獣をかなり倒した。
さらにゴブリンの群れ。
(前より……ずっと楽だった)
剣が重く感じない。
敵の動きもよく見える。
確実に強くなっている実感があった。
「成長、早すぎだろ……」
エリシアも焚き火の前で手を開いたり握ったりしている。
「私……今日、すごく体が軽かったです」
「反応も早くて……ゴブリンの矢も自然と避けられました」
ルークは胸元のネックレスと指輪を見る。
(やっぱり)
[加護の祝福]
――全ステータス10%アップ
「それ……全体的に能力が底上げされるみたいだよ」
「え……?」
「だから守られてる感じしたんだと思う」
ルークは微笑んだ。
「これでエリシア、かなり動きやすくなってるはず」
焚き火の光の中、彼女はそっと胸元を押さえる。
「……本当に不思議ですね」
「ルーク様と出会ってから」
その呼び方に、ルークが苦笑する。
「あのさ……もう様付けやめない?」
「命預け合って、秘密も全部話して、それで様付けは距離あるよ」
少し照れたように笑う。
「ただのルークでいい」
エリシアは一瞬迷い、ふっと笑った。
「では……私のことはエリシアとお呼びください」
「さん付けは禁止です」
少しツンとした表情。
しばし沈黙。
焚き火の音だけが響く。
「……ルーク」
「うん」
「その方が嬉しい」
二人は自然と微笑った。
翌昼過ぎ、隣町ブランへ辿り着く。
石造りの門と活気ある通り。
旅人で賑わう町だった。
「思ったより大きい町ですね」
「少し休めそうだ」
だが――
ルークは異変に気づく。
掲示板に集まる人だかり。
張り紙。
近づいた瞬間、背中が冷える。
銀髪の少女の似顔絵。
特徴:灰色の瞳。
罪状:国家反逆者の共犯。
「……エリシア」
「もう……ここまで来てるんですね」
噂が飛び交う。
「貴族を裏切った娘だって」
「賞金も出てるらしい」
歪められた真実。
作られた悪女。
ルークの拳が震える。
(何もしてないのに……)
エリシアはフードを深くかぶる。
「私がいると……」
「そうはならない」
ルークは即答した。
「必ず終わらせる」
希望が彼女の瞳に灯る。
二人は町を離れた。
――その背後で、かすかな足音。
追撃は、もう始まっていた。




