第109話 残党と黒の意志
夜。
山の奥。
人の気配はない。
風が木々を揺らす。
そのさらに奥。
崩れた遺跡の内部。
ひび割れた石の空間。
そこに――
黒いローブの影があった。
3人。
無言。
空気は重い。
一人が口を開く。
「……また、失敗か」
低い声。
感情は薄い。
別の男が歯を食いしばる。
「あと少しだった」
「確実に、触れていたはずだ」
拳が震える。
だが。
中央の男が静かに言う。
「“不完全”だ」
短く。
断言する。
「核が足りない」
「層も、想定より深い」
わずかに間を置く。
「……前と同じだ」
その一言で。
空気がわずかに揺れる。
別の男が顔を上げる。
「前、だと?」
中央の男は答えない。
ただ続ける。
「だが、確認はできた」
「封印は解ける」
「手段は成立する」
静かに。
確実に。
言葉を積み上げる。
「つまり」
「道は開いている」
沈黙。
そして。
一人が低く呟く。
「……あの時も」
「そう言っていたな」
中央の男の目がわずかに細くなる。
だが否定はしない。
「それに」
別の男が言う。
「今回の障害だ」
空気が変わる。
「報告通りだったな」
「片腕の……」
言葉が止まる。
だが、誰も訂正しない。
「……死神」
静かな言葉。
しかし。
そこには明確な警戒があった。
中央の男が頷く。
「想定以上だ」
「魔剣士ではない」
「未知の戦闘手段」
少しだけ間を置く。
「……記録と一致する」
その言葉に。
一瞬、沈黙が落ちた。
だが誰も問い返さない。
「問題はない」
中央の男が言う。
「今回で証明された」
「封印は崩せる」
「不完全でも、顕現は可能」
低く。
確実に。
「次は」
「より深く」
「より大きく」
「より確実に」
狂気が、静かに積み上がっていく。
「街はどうする」
一人が聞く。
中央の男は少しだけ考えた。
「放置でいい」
「恐怖は広がる」
「情報は混乱する」
「こちらに有利だ」
淡々とした判断。
「それに」
わずかに口元が歪む。
「目立つ存在がいる」
「勝手に動き」
「勝手に注目を集める」
誰のことかは、言うまでもなかった。
「……次は」
男の声が低くなる。
「観察では終わらない」
空気が変わる。
「排除対象に切り替える」
その言葉で。
場の温度が一気に下がった。
――完全に敵として認識された。
その時だった。
奥の闇。
わずかに揺れる。
気配。
3人が同時に振り向く。
「誰だ」
沈黙。
風の音。
何もいない。
だが――
一瞬だけ。
“いた”。
影。
そして。
かすかに見えた。
銀色。
すぐに消える。
「……今のは」
誰も答えない。
気配はもうない。
だが。
確実に。
そこに何かがいた。
中央の男が目を細める。
「……構わない」
「計画に支障はない」
そして。
静かに言う。
「準備を進める」
闇の中。
黒い意志は、止まらない。
まるで――
すでに何度も繰り返してきたかのように。




