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第107話 余韻と違和感

静かだった。


 あれだけの戦いの後とは思えないほど。


 山岳要塞都市ブロックンは、奇妙な静寂に包まれていた。


 


 ルークは眠っていた。


 


 丸一日。


 


 呼吸はある。


 だが、目は覚めない。


 


「……まだ起きへんな」


 ミカサが腕を組む。


 


「魔力の使いすぎや」


 


 リーナはベッドの横に座っていた。


 ずっと。


 その手を握ったまま。


 


「……知らなかったんだと思う」


 


 リーナが呟く。


 


「魔力って、使い切ると……こうなるって」


 


 ミカサが鼻を鳴らす。


 


「普通はそこまで使わへんねん」


 


「使う前に死ぬか、止めるかや」


 


 リーナが小さく笑う。


 


「ルークは止めなかった」


 


「街を守るために」


 


 静かな部屋。


 


 その中で。


 ルークの呼吸だけが、確かに続いていた。


 


 街は――


 動いていた。


 


 瓦礫。


 崩壊した建物。


 


 三分の一が破壊された都市。


 


 だが。


 人は止まらない。


 


「こっちだ!まだ生きてる!」


「資材回せ!」


 


 救助。


 復興。


 


 そして――


 


「国の支援部隊到着!」


 


 ブロックンは要塞都市。


 


 放置されることはない。


 


 すでに。


 


 国を挙げた復興が始まっていた。


 


 人々は語る。


 


 あの戦いを。


 


「見たか……?」


 


「見た……」


 


「死んだと思ったんだ」


 


「吹き飛ばされてよ……」


 


 男が震えた声で言う。


 


「でもな」


 


「立ち上がったんだ」


 


「片腕で」


 


 別の男が続ける。


 


「そっから一人で」


 


「巨兵とやりあって……」


 


 沈黙。


 


 誰かがぽつりと呟く。


 


「……ありゃ人間じゃねぇ」


 


 別の声。


 


「死神だ」


 


 


 ――片腕の死神。


 


 


 その名は。


 


 恐怖ではなく。


 


 敬意として。


 


 静かに広がっていった。


 


 翌日。


 


 ルークは目を覚ました。


 


「……ここは」


 


 リーナが顔を上げる。


 


「ルーク!」


 


 勢いよく抱きつく。


 


「良かった……」


 


 ルークは少しだけ困った顔をする。


 


「……心配かけたな」


 


 ミカサがため息をつく。


 


「ほんまやで」


 


「死んだか思ったわ」


 


 ルークは体を起こす。


 


 左腕はない。


 


 だが。


 目は冷静だった。


 


「……で」


 


「状況は?」


 


 ミカサが答える。


 


「街はボロボロや」


 


「でも復興は始まっとる」


 


 リーナが続ける。


 


「あと」


 


「今日、街で集まりがあるの」


 


「今回の戦いの……」


 


「慰霊と」


 


「祝杯」


 


 ルークが頷く。


 


「行く」


 


 夜。


 


 街の中心。


 


 火が焚かれていた。


 


 人が集まる。


 


 笑顔もある。


 


 だが。


 それだけじゃない。


 


 失ったものの重さも。


 そこにあった。


 


 


 静かに。


 


 祈る。


 


 


 そして。


 


 杯が掲げられる。


 


「……生きてる奴らで」


 


「前に進むぞ」


 


「乾杯」


 


 


 声が重なる。


 


 


 その中で。


 


 一人の男が言った。


 


「今回の討伐」


 


「間違いなくあいつだろ」


 


 


 視線が集まる。


 


 


 ルーク。


 


 


 ざわめき。


 


 だが。


 誰も騒がない。


 


 ただ。


 


 静かに。


 


 認めていた。


 


 その後。


 


 ミカサが低く言う。


 


「……教団の連中」


 


「逃げたやつら、まだ捕まっとらん」


 


 リーナの表情が変わる。


 


「やっぱり……」


 


 ルークも頷く。


 


「終わってないな」


 


 少しの沈黙。


 


 そして。


 


 ルークが言った。


 


「今回の巨兵」


 


「完全じゃなかった」


 


 ミカサが眉をひそめる。


 


「どういうことや」


 


 ルークは空を見上げる。


 


「不完全だった」


 


「だから止められた」


 


 リーナが息を呑む。


 


「じゃあ……」


 


 ルークが静かに言う。


 


「完全に復活してたら」


 


 


 誰も、言葉を続けなかった。


 


 


 想像するだけで。


 


 十分だった。


 


 その頃。


 


 人の気配のない山奥。


 


 巨大な影が崩れ落ちる。


 


 竜。


 


 すでに絶命している。


 


 


 その前に。


 


 一人の少年。


 


 ローブ姿。


 


 手には剣。


 


 血が滴っている。


 


 


「……遅い」


 


 


 小さく呟く。


 


 


 風が吹く。


 


 ローブが揺れる。


 


 


 一瞬だけ。


 


 銀色の髪が覗いた。


 


 


 整った顔立ち。


 


 年若い。


 


 だが――


 


 その目は冷たい。


 


 


 少年は倒れた竜を一瞥する。


 


 


「……弱い」


 


 


 興味を失ったように。


 


 背を向ける。


 


 


 そして。


 


 そのまま森の奥へと消えていった。


 


 


 そこにいたのは――


 


 ただの一人の剣士。


 


 


 だが。


 


 竜を一人で討伐する存在が。


 


 この世界には、確かにいた。

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