第104話 走馬灯
暗い。
静かな世界だった。
音もない。
痛みもない。
ただ。
記憶だけが流れていく。
日本。
俺が生まれた国。
学校。
教室。
机。
友達。
そして――
スマホ。
時間があれば触っていた。
ゲーム。
ログイン。
ガチャ。
イベント。
毎日。
ずっと。
スマホを触っていた。
場面が変わる。
家。
母親の声。
「スマホばっかりいじってたら!」
「ろくな大人にならないよ!」
怒られていた。
俺は適当に返事して。
またゲームを開いた。
画面が変わる。
社会人。
スーツ。
会社。
忙しい毎日。
スマホを触る時間は減った。
だが。
完全にやめたわけじゃない。
朝起きた時。
昼ごはんの時。
寝る前。
スマホを開く。
ゲーム。
ログイン。
ログインボーナス。
それだけ。
ガチャも回さない。
イベントもしない。
ただ。
受け取るだけ。
ルーティーン。
俺は苦笑した。
(彼女もできない人生だったな)
少しだけ。
自分で自分を笑う。
その時。
誰かの顔が浮かんだ。
リーナ。
泣きそうな顔。
そして。
声が聞こえる。
ぼんやり。
遠く。
「ルーク……」
声が少しずつ大きくなる。
「ルーク!」
さらに。
「ルーク!!」
視界が戻る。
揺さぶられていた。
涙を浮かべたリーナ。
「ルーク!!」
俺は目を開けた。
そして。
思い出す。
巨兵。
戦い。
真空玉。
叩きつけられた腕。
「……っ!」
体を起こそうとする。
だが。
動かない。
左側。
感覚がない。
痛い。
いや。
違う。
違和感。
何かが――
無い。
スコッと抜け落ちたような感覚。
リーナが慌てて言う。
「動かないで!」
「ルーク……生きてて良かった……」
俺は聞いた。
「……俺」
「左どうなってる?」
リーナが言葉を詰まらせる。
後ろで。
ミカサが言った。
「あんた」
「巨兵に叩かれてな」
「左が……」
一瞬。
音が遠くなる。
何を言っている?
頭が理解を拒否する。
ミカサが強く言う。
「ルーク!」
「しっかり聞きや!」
そして。
はっきり言った。
「あんたの腕は」
「もう無いねん」
言葉が落ちる。
「左足も砕けとる」
俺は黙る。
数秒。
何も考えられない。
だが。
ゆっくり。
理解していく。
「……そうか」
冷静だった。
むしろ。
妙に落ち着いていた。
俺は異空間を開く。
取り出した。
上級ポーション。
ミカサが驚く。
「は?」
「何が起きたんや?」
俺はポーションを飲み干す。
体が熱くなる。
骨。
肉。
再生していく。
ミカサが目を見開く。
「……おい」
砕けていた左足が戻る。
動く。
だが。
左腕。
そこは。
何も起きない。
俺は肩を見る。
「……腕は無理か」
仕方ない。
俺は考える。
魔力。
残量。
かなり減っている。
魔力回復。
持ってたか?
ない。
俺のやってたゲームに。
魔力消費という概念は無かった。
俺は苦笑した。
「どうするかな」
回復を待つか。
だが。
時間がない。
俺は聞く。
「巨兵は?」
リーナが答える。
「立ち上がることは出来てない」
「でも……」
「勢いはまだある」
ミカサが続ける。
「勇士も近づけへん」
「防衛兵器もほとんど壊れとる」
俺は立ち上がった。
ミカサが叫ぶ。
「おい!」
「どういうことや!」
「さっきまで足……」
だが。
腕は戻らない。
俺は自分の肩を見る。
「仕方ない」
今は。
考えることは一つ。
巨兵。
俺は言った。
「目の前の敵を」
「倒すだけだ」




