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第十話 迫る追撃

 夜明け前の森には、薄い霧が立ちこめていた。


 焚き火の跡を消し、二人は静かに歩き出す。


 そのとき――


 遠くから響く金属音。


 鎧が擦れる、規則正しい足音。


「……来てる」


 ルークが低く呟いた。


 次の瞬間、木々の隙間に松明の光が揺れる。


 前方、背後、左右。


 完全に包囲されていた。


 鎧に刻まれた紋章――伯爵領騎士団。


 隊長格の男が一歩前へ出る。


「伯爵家の娘、エリシア」


「抵抗は無意味だ」


「大人しく戻れ」


 一瞬の沈黙。


 そして冷たい声が続いた。


「――生死は関係ないとお達しだ」


「ここで死んでも、文句はあるまい」


 エリシアの指先が震える。


 兵士たちの視線が、露骨に彼女へ集まっていく。


 銀色の髪。


 月明かりを映す肌。


 旅装の上からでも分かる整った肢体。


「……噂以上だな」


「こんな上玉、滅多にねぇぞ」


「貴族のお嬢様ってのは違う」


 舐め回すような視線。


「捕まえて楽しんでから突き出しましょうよ」


「どうせ罪人なんだしな!」


 下卑た笑いが広がる。


 その瞬間――


「黙れ!!」


 騎士団長の怒号が森を震わせた。


「任務を忘れたか貴様ら!」


「我々は処刑人ではない!騎士だ!」


 兵士たちが一斉に背筋を伸ばし、すくみ上がる。


 張り詰めた沈黙。


 ――だが。


 団長は、ゆっくりと口元を歪めた。


「……もっとも」


「最初は俺からだがな」


「ガハハハ!」


 爆笑が森に響く。


 兵士たちも追従するように笑い出した。


 エリシアの顔から血の気が引く。


 ルークの全身に殺気が走った。


(……上も下も、同じ穴の狢か)


 剣を強く握りしめる。


「……彼女には触れさせない」


 騎士たちが一斉に剣を抜く。


「制圧しろ!」


 最初の騎士が突っ込んでくる。


 重い一撃。


 腕に衝撃が走る。


(強い……魔獣とは別格だ)


 エリシアが背後を守り、二人で位置を入れ替えながら応戦する。


 だが数が多い。


 包囲が狭まる。


「囲め!」


「逃がすな!」


 刃が迫る。


(このままじゃ……)


 その瞬間――


 森の奥から、不気味な音が響いた。


 ――ブォォォ……!


「角笛だ!」


 茂みが激しく揺れ、ゴブリンの群れが現れる。


 弓を構え、槍を振るう十数体。


 ヒュン――!


「ぐあああっ!」


 矢が騎士の目を射抜いた。


「森の中は分が悪い!」


 団長の怒号。


「サークルフォーメーション!」


 一瞬で円陣を組み、盾を重ねる騎士団。


 鉄壁の守り。


 だが動きが止まった。


 ゴブリンたちが波のように襲いかかる。


 一方、別の群れがルークたちへじりじりと迫る。


 赤い目が闇に浮かぶ。


 矢が飛ぶ。


「エリシア!」


 間一髪でかわす。


「今だ!」


 二人は一斉に踏み込む。


 連撃。


 一体、二体、三体。


 ゴブリンが倒れ、道が開けた。


(ここしかない)


 騎士団は防御で身動きが取れない。


「逃げよう!」


 二人は森を駆け出した。


 背後で団長の怒号が響く。


「ちくしょう……!」


 だが金属音は次第に遠ざかっていった。


 しばらく走り続け、ようやく足を止める。


 荒い息。


「……生きてますね」


「なんとか、ね」


 ルークは拳を握る。


「まだ終わってない」


「でも必ず守る」


 エリシアは強く頷いた。


「一緒に……生き抜きましょう」


 追撃は、始まったばかりだった。

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