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第一話 今日はログインしてなかったな

この作品は、

最初は慎重、でも最終的には無双していく異世界ファンタジーです。


主人公は特別な訓練を受けていません。

戦闘経験もほとんどありません。

引き継いだのは、かつて惰性で受け取っていたログインボーナスだけ。


しかしその積み重ねが、

異世界では少しずつ、そして確実に力へと変わっていきます。


序盤は「なんとか生き延びる」物語ですが、

物語が進むにつれて立場は逆転していきます。


じわじわと積み上がり、

気づけば周囲が追いつけなくなる――

そんなタイプの無双が好きな方に向けた作品です。


どうぞ気軽にお読みください。

山田慎二は、ごく普通のサラリーマンだった。

 二十代後半。平均的な身長に、特別な特徴のない体つき。

 会社と家を往復し、気づけば一日が終わっている――そんな人生だ。


 そんな慎二にも、かつては夢中になっていたものがあった。


 ソーシャルゲーム、

 『グランアーク』。


 全盛期には三〇〇〇万人以上がダウンロードした大型タイトル。

 剣と魔法、そして機械仕掛けの文明が混在するファンタジーRPGで、

 慎二はその世界に本気で生きていた。


 装備厳選。周回。ランキング争い。

 効率を突き詰め、誰よりも早く、誰よりも強くなる。

 かつては、そんな“ガチ勢”だった時代もある。


 だが、社会人になり、生活は変わった。


 仕事が忙しくなり、

 遊ぶ時間はなくなり、

 それでも――


「ログインボーナスだけは……」


 義務のように、毎日ログインだけは続けていた。


 使うことのないアイテム。

 溜まり続ける通貨。

 未読のまま増え続けるメッセージ。


 やがて『グランアーク』は下火になり、

 サービス終了が告知された。


 それでも慎二は、最後までログインしていた。


 ――その日は、例外だった。


 残業帰りの夜道。

 不慮の事故。

 衝撃とともに視界が白く弾け、身体が宙に浮く。


 意識が遠のく中で、どうでもいいことが頭をよぎる。


「……今日は、ログインしてなかったな……」


 それが、山田慎二の最後の思考だった。


 奇妙なことに、その瞬間――

 『グランアーク』のサービス終了時刻と、完全に重なっていた。


 目を開けると、空があった。


 青く、やけに澄んでいる。


「……夢、か?」


 身体を起こそうとして、違和感に気づく。


 背格好は、日本での自分とほぼ同じ。

 だが、服装が違った。


 薄汚れた麻のシャツ。

 くたびれた短パン。

 足元は、裸足でも大差のなさそうな草履。


 腰には、

 簡素な紐製のベルトと、

 小さな布巾着袋。


「……なんだ、この格好」


 草履越しに伝わる地面の冷たさ。

 風の匂い。草の湿り気。


「……やけにリアルだな」


 周囲を見渡す。


 森。

 苔むした石の残骸。

 人工物のようでいて、文明的とは言い難い。


「……どこだ、ここ」


 その瞬間だった。


《ピロン》


 耳慣れた電子音が鳴る。


 視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


【ログインボーナスを受け取ってください】

【未読メッセージ:999+】


「……は?」


 息を呑む。


「このUI……」


 見間違えるはずがない。

 何年も見続けてきた画面だ。


「……ここって、グランアークの中、なのか?」


 慌ててステータスを確認する。


 レベル1。

 スキルなし。

 装備なし。


「……全部、消えてる?」


 ガチ勢だった頃の装備も、経験値も、影も形もない。


「ログボだけ……残ったってことか」


 その時、茂みが揺れた。


 白い影が跳び出してくる。


「――ッ!?」


 巨大なウサギ。

 赤い目と鋭い牙。


 避けきれず体当たりを受け、地面に転がった。


「痛っ……!」


 腕を擦りむき、血が滲む。

 はっきりとした痛み。


「……夢じゃないな」


 必死に石を掴み、何度も殴りつける。

 ようやくウサギは動かなくなった。


 UIはゲーム。

 だが、痛みも疲労も本物。


「……剣と魔法の、ファンタジー世界か」


 知識が、後追いで繋がっていく。


 慎二は、再びウィンドウに目を向けた。


【受取期限あり:残り 00:12:34】


「……時間制限?」


 考えている余裕はない。


 慎二は、表示されている時間制限付きの報酬すべてにチェックを入れた。


《受取完了》


 次の瞬間、足元に次々と物が現れる。


 魔石。

 通貨袋。

 洋服。

 剣と防具。


「……おいおい」


 量が多すぎる。


 慎二は、まず服を見繕い、着替えた。

 今の麻のシャツと短パンよりは、ずっとまともだ。


 次に剣と防具を装備する。


 すると――

 視界の端で、数値が動いた。


 剣を外す。

 また装備する。


「……確信した」


 慎二は小さく息を吐く。


「ここは、ゲーム要素が入ったファンタジー世界だ」


 だが、その理解と同時に、不安も湧いてくる。


「……でも、俺は」


 格闘技の経験はない。

 剣術も習ったことがない。

 喧嘩すら、碌にしてこなかった。


「……本当に、やっていけるのか?」


 ステータス画面を見つめる中で、

 見慣れた項目に気づく。


「……補正?」


 確か、『グランアーク』には

 武器や攻撃方法に応じて命中率や動きを補助する

 補正ステータスがあったはずだ。


「……もし、これが効いてるなら」


 そう考えた瞬間だった。


 ――ガサッ。


 茂みが揺れる。


 現れたのは、

 先ほどより一回り大きいウサギ。


 額には、短い角が生えている。


「……格上、だな」


 慎二は剣を構える。


 ウサギが跳んだ。


 だが――

 攻撃は、かすりもしない。


 次の瞬間、

 慎二の剣が自然と前に出ていた。


 狙ったわけじゃない。

 だが、刃は確かに当たる。


「……これ、補正か」


 身体が、わずかに“当たりやすい動き”へ導かれている。


 角ウサギは倒れた。


 怪我は、ない。


「……倒せた」


 慎二は、その場でしばらく立ち尽くした。

 荒い呼吸と、耳に残る心臓の音だけが、現実を主張している。


 先ほどより格上に見えた相手だった。

 それでも、致命的な一撃は受けていない。


「……補正、か」


 技術が身についたわけじゃない。

 ただ、失敗しにくかっただけだ。


「……これなら」


 慎二は剣を握り直す。


「しばらくは、なんとかなるかもしれない」


 慎二は歩き出す。


 ここは『グランアーク』の世界。

 ゲーム要素を内包した、剣と魔法のファンタジー。


 レベルは1。

 戦闘経験は、ほぼゼロ。


 それでも――


「……ログインボーナス、侮れないな」


 その頃――

 彼のレベルは、本人の知らないところで、

 静かに、しかし確実に上がり続けていた。

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