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挑戦者

夜の山道。

湊は走り終えたR32のエンジンを切り、静かな闇の中で深呼吸した。

少しずつ父の車と息が合ってきている──そんな感覚が胸を温かく満たしていた。


そのまま片付けようと助手席に手を伸ばした時、黒い薄いノートが落ちているのに気づく。

古びているのに、丁寧に扱われていた形跡がある。


表紙には、震えるような父の字。


“M32 SETUP / MINATO用”


湊の心臓が跳ね上がる。


ページを開くと、そこには父が積み重ねてきた膨大な走りの知識が詰め込まれていた。

山ごとのライン取り、減速ポイント、アクセルの入れ方、タイヤの温度、天候別の注意点…。

湊が今知りたくて、けれど既に聞けなくなってしまったことばかり。


ページの最後には、少し滲んだ文字でこう書かれていた。


“湊へ。

お前が運転する日が来たら、

この車は必ず応えてくれる。”


湊はしばらく動けなかった。

父が隣に座っているような感覚に包まれて、夜の静けさがやけに優しかった。


その翌朝、湊はノートを胸ポケットへ入れ、凛と合流した。

凛はFDのドアにもたれながら小声で言う。


「最近速くなってきたね、湊。」


「父のノート見つけたんだ。」


「え、ずるっ。見たい。」


「やだ。」


二人で笑い合う。

父のノートが湊の中の何かを変えたのは確かだった。

アクセルを踏む時の迷いが、少し薄くなった気がする。


──その瞬間。


背後から、重低音とともに一台の黒い車が現れた。

ライトの光だけでわかる。

本気のやつだ。


黒のスープラ。

停車すると、若い男がゆっくり降りてきた。

落ち着いた目つきで、走り屋特有の静かな気配をまとっている。


「お前が──“黒いR32”の息子か?」


湊は息を飲んだ。

この言い方は、父を知っている者だけが使う。


男は続ける。


「お前の父さんには勝てなかった。

いつか息子が出てくるって聞いた。

今夜──少し相手してくれないか?」


凛が小声で湊の腕をつつく。


「湊……この人、本物の“速い側”の人だよ。」


湊の喉が一瞬だけ乾く。

でも胸ポケットに触れると、父のノートが温かく感じた。


湊は、ゆっくりと返す。


「……走る。」


男の口元がわずかに上がる。


「じゃあ見せてもらうぜ。

伝説の続きを。」


山の空気が張りつめる。

湊は静かにR32のエンジンをかけた。

夜の闇が、これから始まる物語を見守るように揺れていた。


だんだんいい展開になってきました!さあこの後はどうなる?!自分でもわかりません!!

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