黒い車と遺書
えーまー私は車が好きでして湾岸ミッドナイトなどに影響されてこのような小説を書くことにしました気分次第では続編も出しますので何卒よろしくお願いします
夕方、軽井沢の空がゆっくり色を落としていく頃。
**黒川 湊**は、父の作業小屋の前に立っていた。
古いシャッターは少しだけ歪んでいて、風が吹くたびに「カン…」と寂しい音を鳴らす。
そこに立つだけで胸の奥が少しズキッとする。
「…開けるね、父さん」
湊は深呼吸して、シャッターを持ち上げた。
油と金属の匂いが一気に鼻を突く。懐かしい。
父が毎日のようにここで過ごしていた匂い。
そして、部屋の奥──
布をかけられた大きな塊がひとつ。
湊が近づいて、布をゆっくり外す。
黒いボディが光を反射し、小屋の中が一瞬だけ明るくなった。
日産 スカイライン GT-R R32。
伝説と呼ばれた、あの黒いR。
「…これが、父さんの」
手を触れると、冷たい。
でも、心臓が変な音を立てるほど、熱い。
全部わからないけど、湊は不思議とこの車に呼ばれてる気がした。
その翌週、
父が死んだ。
その知らせを聞いた朝、頭の中は空っぽなのに、胸の奥だけがじわじわ熱かった。
葬式が終わったあと、親戚が無言で差し出した鍵。
黒いキーホルダーには、小さく擦れた文字で父の名前。
遺品として渡されたのは、父が生涯手放さなかった黒い車だった。
視線を向けると、あの時のRが駐車場の隅にぽつんと置かれてる。
艶のないブラック。雨に濡れたボディ。
街の音から切り離されたみたいに、そこだけ時間が止まってた。
ドアを開けると、懐かしい匂いが残ってる。
父がよく使ってた革ジャンの香りと、ほんの少しのガソリン臭。
座席に座った瞬間、胸がぎゅっと掴まれた。
キーを回す。
エンジンは重く、ゆっくり息を吹き返す。
その音が、父の声みたいに聞こえた。
「行けるところまで行ってみろ。」
そんなふうに言われた気がして、港はアクセルに足を乗せた。
運転席に座ってみる。
革の匂い。
ハンドルの太さ。
ペダルの位置。
全部が父の体に合わせてある気がして、胸が少しつまる。
そっとエンジンキーを回してみる。
カチッ。
沈黙。
バッテリーは…生きてるのか?
もう一度。
カチッ。
一瞬、ライトがつきかけ──
すぐ落ちる。
「そりゃあ、三ヶ月放置はキツいか」
でも湊は、なぜか“生きてる”と感じた。
このRは、まだ走りたいと思ってる。
そんなふうに思えた。
次の日の放課後。
湊は誰もいない教室で、窓の外の空をぼんやり見ていた。
気温は下がり始めてるのに、胸の奥はずっとざわついている。
昨日見た父のノート。
“追うな、だが逃げるな”。
まるで挑発されているみたいで落ち着かない。
「黒川〜!どうしたん、魂抜けてるぞ?」
突然肩を叩かれて、湊は一気に現実に戻る。
振り返ると、いつもテンション高めの幼なじみ──
桐生 椿が立っていた。
赤いイヤホン片方だけ垂らして、いつも通りの元気さ。
「昨日さ、父さんの小屋……開けたんだよ」
「え、マジで?
あんたずっと避けてたじゃん。で、中どうだったの?」
湊は深呼吸して答える。
「R32が……あった。父さんの」
椿の目が一瞬で輝く。
「はぁ!? あの黒いR!? 伝説の!?
ちょ、ちょっとそれは聞いてなかった!」
「お前“伝説”って言葉好きすぎ」
「いやマジで伝説なんだって!昔、軽井沢に“黒い稲妻”って呼ばれる走り屋がいたって噂、聞いたことあるだろ?」
湊は息をのむ。
何度か聞いたことがあった。
夜の山道を音もなく駆け抜ける黒い影。
誰が運転していたかは誰も知らない。
「まさか…父さんが?」
「可能性ゼロじゃないって!
てか湊、見せろよそのR。
今日行くぞ、小屋!」
夕方、小屋。
シャッターを開けると冷たい空気と金属の匂いが出迎える。
椿はR32を見た瞬間、息を忘れたみたいに固まった。
「……うわ。写真とかのレベルじゃねえ……本物だ……」
湊は、ほんの少し誇らしくなる。
椿は車の周りをぐるぐる回りながら興奮が止まらない。
「やっば……これ父さんに残されたんでしょ?
これさ、湊、走らせてみたくない?」
「バッテリー死んでる。動くかも分かんない」
「だったら今日、やってみよ!
ほらブースター持ってきた!」
「なんで持ってるんだよ…」
「こういうの、なんか必要な気がしてさ」椿らしい。
湊と椿はバッテリーにブースターを繋ぎ、
一度目のキーを回す。
カチ。
静寂。
「もう一回」
カチ。
ライトが少し光る。
「いけそうだな……湊、やって」
湊は息を整え、キーを深く回した。
その瞬間──
……ゴォッ……ッッバァァンッ!!
黒いRが生き返ったみたいに吠えた。
小屋の空気が震える。
埃が舞う。
湊の心臓も跳ね上がる。
「うわ……これ……!」
椿は目を丸くして言う。
「完全に走りたがってる音だぞ湊!!」
湊は震える足でアクセルを少し踏む。
回転数が上がるたび、
まるで父の声が遠くで響くみたいだった。
──“逃げるな”。




