旅立ち
恐れ入りますが駆け抜けたい気分だったので、今回は字数多めでお送りします。
アリュゼルン「悠記さん、私と一緒に来た道を戻っていただけませんか?」
悠記「来た道をって……えぇぇぇ!?あの命懸けで通ってきた道を!?」
アリュゼルン「はい、“私たちが来た方角を”と言った方が正しいですが…。」
悠記「理由を聞いてもいい?」
アリュゼルン「私の暮らしていた国を見てほしいのです。」
悠記「アリュゼルンの…国…?あ、そうか!ここはオイストが暮らす技術の国テックテックキルス。じゃあアリュゼルンにも母国ってやつがあるってことか!」
オイスト「アリュゼルンさん、ずっと気になっていましたがあなたがしている髪飾り…もしかしてアリュゼルンさんの国って……」
アリュゼルン「はい、“イムロヴィン”です。」
悠記「イムロヴィン…?」
アリュゼルン「ここから南に行くとある国です。私はその国で生まれ育ちました。」
オイスト「やはり、そうでしたか。その髪飾りの紋章を見て、もしかしてと思っていましたが。」
悠記「でもそのイムロヴィンって国がアリュゼルンの故郷だってんなら行かない理由はないよ。アリュゼルンも知ってるだろうけど俺は戦えない。それでもこの世界の危険度を知った以上、アリュゼルンを一人で行かせるわけにはいかないからな。アリュゼルンの国は鎖国してないんでしょ?じゃあアリュゼルンの国の人にいろいろ聞いた方が安全かもしれない。どうせ帰り方もわからないしな。」
アリュゼルン「ありがとうございます!悠記さん!それでは準備ができ次第ここを発つことにしましょう!」
悠記「うん、わかった!」
オイスト「それでしたらあと一日だけ待ってくれませんか?悠記さんから預かったスマートフォンのことも調べたいですし、二人の旅の準備も整えたいので。」
悠記「え?そんなことまでしてくれるの?俺としてはこの翻訳機もらっただけで十分なんだけど…」
オイスト「異世界から来た悠記さんはこの世界に疎いでしょうし、アリュゼルンさんも戦闘の心得はないようですから道具や情報をしっかり用意してから旅立った方がいいですよ。ここで私たちが出会ったのもきっと神の導きですから。」
悠記「確かにその通りだな。俺たちが今生きてるのは単なる奇跡の連鎖だってことがいまだに自覚できてないみたいだよ。ところでオイストは俺たちと来る気はないのか?」
アリュゼルン「そうですよ!オイストさんがいれば心強いです!一緒に行きませんか?」
オイスト「僕は元々ここで資源の調査や採取を任されているので動くことはできません。それに僕も戦闘能力はないので、いてもいなくてもそんなに変わらないですよ。もちろんあなた達と行くのはすごく楽しそうなので行きたい気持ちはありますが。」
悠記「そうか、残念だな...。」
オイスト「だから生きてまた会えるように明日しっかり準備を整えましょう!」
悠記「よし、わかった!よろしく頼むよ、オイスト!」
アリュゼルン「よろしくお願いします!」
オイスト「そうと決まれば明日は忙しくなりますよ!」
食事を終えた俺たちは各々の時間を過ごす事になった。俺はオイストにスマホを託すため、大小様々な機械が並んだオイストの部屋にいた。
オイスト「やはりこのスマートフォンという機械は非常に興味深いですね。通話や様々な機能を一つにまとめたものは私も持っていますが、うちのものとはデザイン性にかなり差がありますね。なんというかとてもオシャレです。」
悠記「この翻訳機とか見る限り、性能はそっちの足元にも及ばないと思うけど…」
オイスト「見たところこのスマートフォンは娯楽に重きを置いているように思えます。そういう意味では、うちのとは少し用途が違うと言えるかもしれませんね。悠記さんの住む世界はさぞ平和なんですね。」
悠記「ん?この世界は...」
オイスト「あ、この生き物の横顔のようなシルエットのアイコンはなんですか?この世界にいる生き物に似ているようですが。」
悠記「ん?あぁ、それは“レックス”っていうアプリだよ。SNSって言うんだけど、自分の近況とかを写真や動画付きで世界中に発信できるんだよ。逆に世界中の人の発信を見たり、それに反応したりすることもできる世界中と繋がることができるサービスなんだよ。」
オイスト「へぇ〜“世界中と繋がる”ですか。素晴らしい響きですね!ホントだ!僕の見たことないものばかり出てきますね!ところで、かなりの頻度で出てくるこの女性は誰ですか?悠記さんの大切な人ですか?」
悠記「あ、それは俺の推しの帝御歌ちゃんだよ。」
オイスト「推し……?なんですか?それ。」
悠記「オイストの言う通り、大切な人のことだよ。でも家族や友達とは違う、自分にとってとても遠い存在だけど、全てを捧げたくなるほど尊くて、自分の心の支えになるような大切な人のことだ。」
オイスト「なるほど、すごいですね!神様みたいです!」
悠記「神様か……まあそんな感じだな。ってあれ?オイスト…なんでレックスの投稿が見れるんだ?ここじゃあスマホは使えなかったはずなのに。」
オイスト「ん?あー確かにそれもそうですね。見たところこのスマートフォンも電波を介して情報をやり取りしているようですが、うちの受信機でもさすがに場所も知らない異世界の情報を受信するのは不可能なはずですからね……」
悠記「受信機?ちょっと詳しく教えて?」
オイスト「テックテックキルスの技術者が総力を上げて作った巨大浮遊受信機というものがありましてね。悠記さんは知っているか知りませんが、この空のさらに上に“宇宙”という無限に広がる不思議な空間があるのです。」
悠記「はい!?」
オイスト「はい!」
悠記「いや、そうじゃなくて。宇宙?今宇宙って言った?」
オイスト「あ、ご存知でしたか?」
悠記「じゃあここは惑星ってこと?この世界も丸いの?」
オイスト「はい、丸いですよ。ここはフィリエル系第3惑星の“ヴァリオス”という惑星です。……そうか、もしや悠記さんの世界も別の惑星だったということですか?」
悠記「う、うん……そうだわ…絶対そうだわ…。ごめん、異世界とか嘘ついて。」
オイスト「未知の惑星に来たんですから異世界みたいなものじゃないですか。そういうことならこのスマートフォンが使える理由は説明がつきます。さっき言った受信機がこの惑星に一定距離で着いてくるようになっていて、その受信機の子供のような小さい受信機が複数、電波を求めてこの宇宙を彷徨っているのです。そして各々が拾った信号を子機から母機へ送り、さらに母機からテックテックキルスの中心部にある受信拠点へと送る仕組みになっているのです。おそらく子機の一つが悠記さんの惑星の電波に誘われて信号をこちらに送ってきているんでしょう。」
悠記「なるほど、よくわかったよ!つまりここでもスマホが使えるってことだ!」
オイスト「たぶんわかってないみたいなので補足しときますが、この惑星でできるのは受信のみです。送信はできません。」
悠記「え、どういうこと?」
オイスト「さっきも言ったようにこの惑星でスマートフォンが使えるのは受信機の影響です。しかし、子機には送信機能があるものの母機は受信しかできません。元々宇宙空間や他の惑星についての情報を得るために作られたものですからね。だからこの惑星から悠記さんの惑星に送信することはできないのです。さっき見せてもらったこの“レックス”で言うなら、悠記さんは他の人の投稿を見れますが、悠記さん自身が投稿することはできないということです。」
悠記「あ、わかりやすい。じゃあ電話ができなかったのもそれが原因ってわけか!うーん、まあ、まあ、まぁ、まったく使えないと思ってたから受信できるだけありがたいか。御歌ちゃんのブログとか配信は見れるってことだもんな!ありがとうオイスト。思わぬタイミングでいろいろわかってめっちゃ有意義な時間だったよ。あとは充電さえできれば完璧だ。引き続きよろしく頼むよ。」
オイスト「こちらこそ、とても楽しかったですよ!スマートフォンのことは任せてください!」
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数時間後、悠記は自分が目覚めた部屋で再び眠りにつき、静かに朝を待っていた。一方アリュゼルンは、オイストの家の外でピンク色の月明かりに照らされた夜の空を一人見上げていた。するとそこにひと作業終えたオイストがやってきた。
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オイスト「夜中に外に出るのは危ないですよ。」
アリュゼルン「ごめんなさいオイストさん。少し考え事をしていて。」
オイスト「アリュゼルンさん。あなた悠記さんに話すつもりですね。」
アリュゼルン「はい。私の故郷に着いたら話そうと思います。悠記さんは自分がここに来た理由がわからないと言っていました。異世界からこの世界へ…」
オイスト「あ、それ異星でした。」
アリュゼルン「へ?」
オイスト「悠記さんは異世界から来たのではなく、こことは別の遠い惑星から来た異星人でした。この惑星に来た方法と意味についてはまだ本人もよくわかっていないみたいでしたが。」
アリュゼルン「そうなんですね。まぁほとんど異世界みたいなものですよね。」
オイスト「ですね。」
アリュゼルン「でもなんだか私、偶然じゃないような気がするんです。ここに来るまでの悠記さんを見る限り、確かに悠記さんは戦闘には慣れていない様子でした。でも悠記さんには道を切り開く力があるように思います。私がもうダメかもと思った瞬間、悠記さんが一気に戦況を覆すんです。私が今生きているのは悠記さんのその力のおかげです。だからこそ悠記さんがこの惑星に来たのには意味があると思うんです。オイストさんも異星人ですよね?どうやってヴァリオスに来ましたか?」
オイスト「母星で作られた小型宇宙船で来ましたが…」
アリュゼルン「普通ならそうです。ヴァリオスはグローバル惑星ですから、異星人がいるのはなにも珍しくありませんが、大抵の異星人は宇宙船を使ってヴァリオスにやってきます。でも悠記さんは扉を潜ってここに来たと言っていました。他の異星人の方々とは全く違う奇妙な方法だと思いませんか?きっと悠記さんは誰かに必要とされてここに来たんです。悠記さんがヴァリオスに安寧をもたらす鍵になると、今はそんな気がしてならないのです。」
オイスト「アリュゼルンさん…」
アリュゼルン「…?」
オイスト「僕は正直、悠記さんが不本意にヴァリオスに来たと聞いて、悠記さんにはあまり多くを話さない方がいいと思っていました。帰り方がわからなくてただでさえ不安なのに、ヴァリオスの現状を知ったらさらに不安が増して疲れてしまうでしょうし、何より悠記さんはアリュゼルンさんのことをとても大切に思っているように見えました。そんなアリュゼルンさんが渦中にいるとなると、心配させてしまうんじゃないかとも思いました。でも今アリュゼルンさんの話を聞いて僕も決めました。あなたにだけはこの話をしておこうと思います。心して聞いてください。」
アリュゼルン「……….はい…」
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翌朝、なんとなく目覚めた俺は久しぶりにオイスト邸の外に出てみた。すると、オイスト邸の前でアリュゼルンが一人剣を振っていた。
悠記「アリュゼルン!それ…鍛えてるのか?」
アリュゼルン「はい…私が悠記さんに着いてきてもらうのですから、今度は私が悠記さんを助けないとと思いまして。」
悠記「そっか!それは頼もしいな!でもごめんな…なんか情けないよな。本当は俺が助けなきゃいけないのに。」
アリュゼルン「言ったじゃないですか。“今度”は私が悠記さんを助ける番なんです。それに悠記さんは…」
悠記「ん?どうしたの?」
アリュゼルン「いえ!この話はイムロヴィンに着いてからにしましょう!」
俺はアリュゼルンが剣を振る隣で腕立て伏せをしたりして、申し訳程度だが明日の出発に備えた。そうしている間に時間は過ぎていき、俺たちはオイストに呼ばれた。
オイスト「二人に渡しておきたいものがありまして。」
悠記「渡しておきたいもの?」
アリュゼルン「なんですか?」
するとオイストは部屋にある一際大きなモニター付きの機械の上に置いてあった何かを俺たちに差し出した。
悠記「あ、これって…」
オイストの手に握られていたのは、オイスト自身も身につけている腕時計のような小型の機械だった。
オイスト「これはハレトノヴァルシェです。通常では持ち運べない量の荷物をこの中に収納して、自在に出し入れができます。」
悠記「え!これオイストが使ってたやつじゃん!すげぇ!こんな小さい機械に荷物を収納できるのか!めっちゃ便利じゃん!でもいいの?これも価値のあるものなんだろ?」
オイスト「いいんです!できることは全てやりたいので…。」
悠記「お、おぉ……本当にありがとな!」
アリュゼルン「オイストさん、ありがとうございます!」
オイスト「いえいえ、中には武器や食料などを少しですが入れているので役立ててください。それとこれの使い方も教えておこうと思いましてね。」
そう言うとオイストは大きな銃のようなものを両手に抱えて持ってきた。
悠記「うわ!何これかっこいい!男のロマンだよな!」
オイスト「それはSDGUNsというテックテックキルスで開発された銃です。その銃の最大の特徴はその辺に落ちている石ころを弾として使うということです。この銃にその辺で適当に拾った石ころを入れると、中で瞬時にその石ころを銃口に合った大きさに削って加工します。それをそのまま銃弾として発射できるということです。」
悠記「名前が気になるけど、それはすごいな。石ころさえあれば無限に撃てるってことだよな?」
オイスト「はい、しかも最大4つまで石ころをセットできるので4連射が可能です。威力も貫通とまではいかなくとも、常人の体をエグるぐらいの威力はありますから、小型の生物相手ならかなり有効ですよ。」
悠記「よし!これがあれば俺もアリュゼルンを援護できる!俺ちょっと練習してくる!」
オイスト「待ってください悠記さん、それなら翻訳機を一度預けてくれませんか?」
悠記「翻訳機を...?」
オイスト「いい案があるんです。」
そうして 翻訳機をオイストに預けた俺はオイスト邸の外でSDGUNsの試し撃ちをすることにした。
オイスト邸の周りで石ころは簡単に手に入った。オイストに軽く教えてもらった通りに、俺は拾った石ころをSDGUNsの後ろ側からセットして前の方に付いている持ち手兼石ころの加工を開始する用のレバーを引いた。
すると、SDGUNsの中から機械音が聞こえてきたと思ったのも束の間、引っ込んでいた引き金らしき部分が飛び出してきた。
俺はゆっくりとサイトらしき部分をのぞきながら適当に何もない方角をSDGUNsで狙い、飛び出してきた引き金を思い切って引いてみた。
すると引き金を引いたとほぼ同時に、SDGUNsから石ころが高速で真っ直ぐに飛び出した。
速すぎて形はよくわからなかったが、拾った時は歪だった石ころがあの丸い銃口からちゃんと飛び出したということは、やはりそれなりに適した形に加工されていたのだろう。射撃の反動はあまりなく、大きくて重量がそれなりにあること以外は申し分ない武器だと思った。
これでアリュゼルンの役に立てる。俺は思わず笑みを浮かべた。弾が飛んでいった方を見つめながら余韻に浸っていると、俺の背後から拍手の音が聞こえてきた。振り向くとアリュゼルンが興奮気味に笑顔で俺に駆け寄ってきた。
アリュゼルン「ザルネ ファア! ユウキ ネス!
ラド ナ ハルノ メルヴァス アレフ
イラ デルメン ヴォルグ タルス ルノア アレフ!
テラ ザルネ ロム ネ アシェル!」
あぁ、この感覚久しぶりだ。翻訳機をオイストに預けているから、アリュゼルンの言葉がわからなくなった。
つい先日までこの状態で途方に暮れていたのに、翻訳機をもらってから驚くほど滑らかにコミュニケーションがとれていたから、あれが遠い昔のことのように感じる。
ただあの時と違うのは、アリュゼルンが俺をある程度信頼してくれているということがわかっていることだ。アリュゼルンがなにを言っているのかわからないけど、下手なことをしたら彼女の機嫌を損ねるのではという心配が今はほとんどない。今回はとりあえず爽やかな笑顔で応えよう。
するとアリュゼルンは周りをキョロキョロして、とある方向を指差した。アリュゼルンが指差した方向に目をやると、離れたところに角のないシカのような生き物が立っているのが見えた。
おそらくアイツをターゲットにしてほしいということだろう。確かに試し撃ちとはいえ、的があった方がより使用感がわかる。
俺は足元に落ちていた石ころを適当に4つ拾い上げ、SDGUNsにセットしながらゆっくり標的に近づいていった。標的まで30メートル程のところまで近づいた俺は、さっきと同様にサイトを覗き込み標的の頭に狙いを定めた。
このSDGUNsを早く使いこなしてアリュゼルンの助けになりたいと思っていたが、いざ生き物を標的にするとなると緊張する。俺は静かに呼吸を整えた後、思い切り引き金を引いた。
その瞬間、SDGUNsから発射された弾丸が標的に向かって鋭く飛んでいった。弾丸が瞬く間に見えなくなった後、標的のシカらしき生き物は実際のシカよりも少し長い首から血を吹き出して悲痛の鳴き声を上げながら倒れた。
俺の後ろを着いてきていたアリュゼルンはまたもや興奮気味に生き物に駆け寄っていった。
今回の相手はいかにも草食動物のおとなしい生き物だった上にこちらの先制攻撃だったが、今後は以前のような凶暴な生き物を相手にしたり、不利な状況でこのSDGUNsを使うことになったりもするだろう。
生き物を標的にしたこの一撃は間違いなく俺の自信になったが、もっと腕を上げなければ。生きて無事にアリュゼルンの故郷に辿り着くために。
練習をしているうちにさらに時間が過ぎていき、外はすっかり暗くなっていた。
俺は再びオイストに呼ばれ部屋に行くと、オイストは預かっていた翻訳機を俺に差し出した。
オイスト「これ、預かっていた翻訳機です。」
悠記「うわ、なんだこれ?背中に何か...ってこれ俺のスマホじゃん!」
オイスト「そうです!充電機能を翻訳機につけることにしたんです。僕は悠記さん達に着いていくことができませんが、今後も何か力になれればと思いまして、悠記さんのスマートフォンで僕と通話ができるようにしておきました。通話の音声は直接話すよりも小さいですから翻訳機により近い方がいいと思いましてね。翻訳機の頭に黒い部分がありますよね?普段ここから光を吸収して翻訳機が動いているのですが、この部分を強化してスマートフォンの充電にもエネルギーを分配できるようにしました。」
悠記「いや、ほんと...なんて言うか、ありがとうオイスト。功労賞だよ。」
オイスト「いいんですよ。僕も異星の技術を知れて楽しかったですから。」
悠記「この借りはいつか必ず返すから!」
その後3人で夕飯を食べ、自室に戻って久々にレックスのタイムラインを見ていた俺は、とあるアポノファンの投稿に目が止まった。
「FFさんおはようございます!ベジグリ明けの月曜日でしんどいですが、今日も頑張りましょう!FFさんたちも仕事や勉強、無理なく頑張ってください!」
悠記「この投稿…5時間前だ…」
俺が気になったのは“月曜日”という部分だ。この投稿を見るに、どうやら今日本は月曜日らしい。でも俺がこの惑星に来たのはベジグリの日、“日曜日”なのだ。こっちに来てから3日程経っているはずなのに、どうやらこの惑星は地球よりも時間の進みが早いらしい。まあここに来てから俺が置かれている状況についていろいろわかってきたから、今更気にするほどのことでもないか。
そんなことを考えていると、俺の部屋にアリュゼルンが入ってきた。
アリュゼルン「悠記さん、どうですか?スマートフォンの調子は?」
悠記「うん、問題なく使えるよ。オイストのおかげでこれからも重宝しそうだ。」
アリュゼルン「あ!これがオイストさんの言っていた“レックス”ですね!すごい!見たことない文字ですね!あ!なんですかこの絵!すごくリアルです!」
悠記「これは日本語。俺の国で使われている言語だよ。」
アリュゼルン「へぇ〜これが悠記さんの……あ!悠記さんこれはなんですか?」
アリュゼルンが指差したのは音楽配信サービスが提供している最新シングルランキングの投稿だった。
悠記「俺の惑星には音楽や歌で人々を楽しませることを生業にしてる人たちがいるんだ、これはその人たちが歌っている歌の人気ランキングだよ。」
アリュゼルン「歌ですか…私の国でもみんな歌が大好きでした。じゃあこの一番上に載っているのが一番人気の歌ということですか?」
悠記「ああ、そうだよ。1位は“Mr. CLEAN UP”か。確かに今大人気だからなー。新曲出すたびにヒットしてるイメージだよ。」
アリュゼルン「悠記さん、これは?」
悠記「ああ、“ASAGAERI”か。それも人気のグループだよ。」
アリュゼルン「悠記さんが好きな人はいるのですか?」
悠記「ああ、いるよ。この“Apollo Notes”っていう女性アイドルグループ。」
アリュゼルン「アイドルってなんですか?」
悠記「うーん、簡単に言うと歌って踊る人たちだね。音楽に加えて、かっこよさとか可愛さを売りにしてたりもする。」
アリュゼルン「いろんな人たちがいるんですねぇ。」
悠記「いっぱいいるよ。ちなみにこの“スリーウェイハロー”もアイドルグループだよ。アイドルグループだとここが一番強いかな。でも俺が一番好きなのは
Apollo Notesの帝御歌ちゃんだ。俺の自慢の“推し”だよ。」
アリュゼルン「推し…?なんですか?それは…」
悠記「うーん、オイストにも聞かれたけど難しいんだよな。まあ簡単に言うと、自分の心の支えになるような大好きで大切な人のことだ。」
アリュゼルン「なるほど、それが推し…ですか…そ、それでは悠記さんはその“おんか”という方のことが好きということですか!?」
悠記「うん、大好きだよ。あ、そうだ。どんな人か見てみる?めっちゃ可愛いんだよ!」
アリュゼルン「へ!?い、いえ!大丈夫です!明日から長旅になるでしょうから私はもう寝ようと思います!それでは悠記さん、おやすみなさい。」
そう言うとアリュゼルンはそそくさと部屋を出て行った。何か様子がおかしかったが、アリュゼルンの言うとおり明日からは長旅になるだろう。俺も今日は早めに寝て英気を養うとするか。
そして翌朝、ついに旅立ちの時がやってきた。俺たちが荷物をまとめてオイスト邸を出ると、そこには昨日俺が射殺したシカみたいなのよりも、だいぶ大きくてがっしりとした偶蹄類的なやつを連れたオイストが立っていた。
悠記「うわぁ!オイスト!なんだそのイカついやつは!」
アリュゼルン「オイストさん!どうしたんですかその生き物!?」
オイスト「大丈夫ですよ。これは僕が今朝買ってきたんです。」
悠記「買ってきた…?」
オイスト「二人ともイムロヴィンまで歩いて行くおつもりですか?まあ時間をかければいけますが、これに乗ればもっと早く辿り着けますよ。これで二人の旅の準備はバッチリです!」
悠記「オイスト……本当に君には何て礼を言えばいいのか……」
オイスト「すべて僕が好きでやったことです。アリュゼルンさん、悠記さんをよろしくお願いします。」
アリュゼルン「オイストさん…このご恩、決して無駄にはしません。」
オイストに伝えたい言葉はたくさんあったが、俺たちの別れの挨拶はシンプルだった。でもそれは“オイストと必ずまた会おう”という強い気持ち故のものであり、アリュゼルンもきっと同じ気持ちだっただろう。
俺とアリュゼルンはオイストに背を向け、偶蹄類にまたがろうとした。しかし、直前で俺はその足を止めた。
アリュゼルン「悠記さん...?どうかしましたか?」
悠記「乗り方わからん...」
感動的になるはずだったオイストとの別れで醜態を晒した俺は、生物ライド経験者のアリュゼルンに手綱を握らせ、そのアリュゼルンの背中にしがみつくという“逆アオハル”スタイルで出発することとなった。
オイスト「また何かあればいつでも連絡してください。できる限り力になりますから。」
悠記「ありがとう!オイスト!行ってくるよ!」
アリュゼルン「オイストさん、行ってきます!」
こうして偶然出会ったオイストからこの上ない施しを受けた俺とアリュゼルンは、技術の国テックテックキルスを離れ、アリュゼルンの故郷イムロヴィンを目指し進み始めた。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
道中何事もなければ良いのですが。




